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「突然呼び付けたのは、敵対している組が不審な動きをしているらしくてな。その調査をしているんだが、突然お前に見合いを申し込んできた」  親父さんの言葉に俺は大きく驚いた。  幾ら公にしていないと云えど、俺の存在を知っている筈だ。然し、それを無視して見合いを申し出るとは相手は余程見合いを受ける事に自信が有るようだ。 「…私にどうして欲しいんですか?」 「見合いだけでも受けて欲しい。俺達は相手と和解する気も無いし、これ以上調子放かせる訳にもいかない。隙を突いて潰したいと考えている」 「ならばお受けしましょう。面倒事は嫌ですが組の為ならば致し方無いでしょう」  面倒臭そうに溜息を吐いてはゆっくり立ち上がった茜さんに、親父さんは呆れた様に息を吐いてはこちらに視線を向けた。 「遙君は良いのか?幾ら番では無いと言えど婚約者だろう。」 「仮ですし。お互いそんな感情有りませんよ。ねぇ?蕪木君。」  こちらに向ける視線は鋭く、黙って頷けと言わんばかりである。俺が何か言える立場では無いので「はい」と返事を返すと、茜さんは満足そうに広間から出て行った。俺も離れに戻ろうと立ち上がったのだが、親父さんに声を掛けられた。 「嫌なら嫌と言って良いんだぞ、遙君。幾ら俺達が勝手に決めた婚約だろうが、君には嫌な事は嫌と言う権利が有るんだから」 「…いえ、俺には言う資格なんて有りませんよ。茜さんはそんな事願ってない」 ただの婚約者の俺に意見など求めていない。過ごしてみて分かったが俺を嫌っている訳では無く、単にαを嫌っているのだ。着替えの手伝いなど身体に触れる事に抵抗は無いようだが、必要以上に触れられるのが嫌そうで、どんな物が好きなのか、嫌いなのかも本人では無く親父さんや若衆達に聞いた位だ。 「…君はそれでも傍に居るんだな。俺からすれば君の様な子が傍に居てくれるのは有難いが、あまり無理はしないでくれよ?嫌になったら何時でも言いなさい」 「…はい」  茜さんは俺が居なくとも支障は全く無い。  世話は若衆がやれば良い話で、俺が此処に来る前はそうしていたのだから居続ける必要性も無いのだが、どうも離れがたく感じてしまう。  本人は構って欲しくなくて仕方が無いのだろうが、何せ親父さんの命令ならば背く事はしない。取り敢えず一年間我慢すればと考えているのだろう。それか、俺が耐えられずに出て行く事を願っている気がしてならないが、そんなの俺は叶えてやるものかと勝手に勝負している。茜さんは気付いていないだろうが、気付かれていたらただでさえ低い好感度が更に下がってしまうので気付かれたくはない。  (そう思うのは茜さんに特別な感情を抱いてるのか…、なんて_)
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