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 俺は離れへと戻り、ソファーに座って溜息を吐いた。  勝手に決められた婚約だった筈が、運命の番だったと分かり少し混乱している。番になれる可能性が低いのにも関わらず相手は運命の番。護衛として傍に居るのは俺からすれば生殺し状態である。日常的に拷問を受けるのは嫌すぎる。 「⋯どうしたもんか」  茜さん自体、俺が運命の番だと気付いた筈だ。となれば、このまま護衛をする事が出来なくなる可能性が有る。  薬で発情していたが、これからは周期で来るだろう。この世界に生きる以上、早めに番を見付ける必要が有る。番えればそういう面で狙われる可能性が減るし、突然の発情で襲われる事も無いだろう。  運命の番だからと言って、茜さんが俺を意識し求める事は無い。断言出来る事が面白く無いが、俺が文句を言える立場では無いので茜さんの体調が落ち着くまで待とうと、茜さんの部屋の前に腰掛けた。 「_ん、」  ふと、目を覚ますと見慣れた自室の天井が映った。  身体の怠さに顔を顰めながら起き上がった私は喉が乾き部屋から出た。 「⋯蕪木君⋯?」  ふと、下の方に何か有るのに気付き視線を移せば、そこには壁に寄り掛かって眠る蕪木君の姿が有った。  幾ら暖かくなったと言えど、こんな所で寝ると風邪を引くと思った私は起こそうと手を伸ばしたのだが、昼間の事を思い出して手を引っ込めた。  あの薬の入ったお茶を飲んだ後、身体に変化は全く感じなかった。  然し、蕪木君が駆け付けた後急に身体に熱が帯び鼓動が速まった。呼吸も荒く、身体が疼いたのだ。当然初めての経験で良く分からなかったが、蕪木君の様子を見てこれは発情期(ヒート)なのだと悟った。  _蕪木君が私の運命の番。  これは揺るぎない事実で変わる事の無い事実である。  誰かと番える気は無い。幼い頃からαが嫌いで、番える位ならば死んだ方が良いと思っていた。  “運命”なんて言葉が1番嫌いで、それで苦しんでいた人を間近で見ていたこそ認めたくない。 「⋯君は、どうなんだろうか」  あの時、蕪木君は私の為に怒り男を蹴り飛ばした。止めなければ殴っていただろう。  好かれる事をしている訳でも無いのに、彼は私の為に怒ったのだ。  私はまだ蕪木君を信じられてない。信じられないのだ。 「⋯蕪木君、起きて下さい」  引っ込めた手を伸ばし声を掛けた私だったが、手を掴まれて体勢を崩した。  体調が万全ならば体勢を崩す事は無かっただろうが、前に倒れた私の唇は蕪木君の唇に重なった。 「⋯ん⋯?」  ふと、目を覚ました俺は眠ってしまい夜になっているのに気が付き慌てて立ち上がった。  すると、肩に掛けられていたブランケットが床に落ちた。  茜さんが俺に気付き掛けてくれたのだろう。体調は大丈夫なのだろうかと心配しつつ、落ちたブランケットを拾い上げた。 「そう言えば、何か口に当たった気がしたけど⋯。気の所為か」  何か変な夢を見たのだろうか。然し、唇に触れた柔らかい感触がやけにリアルだった。
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