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「どうしてそういう意地悪なことを言うのさ」
先輩の振る舞いもまた、至って軽妙だった。挑発するように口角を上げて、ふざける余裕さえあるらしい。
「君は俺のこと好きなんでしょ」
どうにもこの先輩、強欲な上に傲慢でもあるようだ。
「頭のなかがお花畑過ぎやしませんか」
「図星なんじゃないの?」
顔を見合わせて笑う。楽しくはない。
まるで互いに牽制し合うような緊張状態で少し時が流れたところに、次の言葉を発したのは先輩の方だった。
「――――俺は、君のことが好きだよ」
勝ち誇った目。そのくせ相変わらず塞がった耳。ゲームの切り札のような言葉を、先輩はいとも容易く出す。
俺は何もかもが馬鹿らしくなった。
かったるい作り笑いを保つことも、張り詰めた空気に耐え続けることも、目の前のその人と向き合うことも。
「…………ああ、そうですか」
全くこの人は、俺が思っていた以上に強欲で、傲慢で、自己中心的だ。
自分の目的のためならどんな手段でも厭わない。噓をつくことも。嫌いな相手に向かって「好き」と吐くことさえ造作ないのだろう。
そのやり方で、俺から何かしら好意的な反応を引き出せると思ったのだろう。結局先輩が好きなのは俺ではなくて、誰でもなくて、皆に愛され慕われている自分自身でしかない。
だから、俺の次の言葉は決まっていた。
「俺は、貴方のことが嫌いですけどね」
たとえ他の人間全員が彼を「好きだ」と言ったとしても、俺は「嫌い」と言い続けるつもりだ。
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