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話を聞いたところ、前々からお姉さんの服を借りて女装をしていたらしい。
今日は外出していた両親が予定より早く帰ってきてしまい、バレたら困ると慌てて家を抜け出したそうだ。
こんなところに来る方が危ない気もするが、人が来なければどこでも良かったのだろう。
「光くん、お姉さんいたんだ」
「はい。今は遠いところにいるんですけど」
「光くんのお姉さんか。きっと美人なんだろうな」
「どうでしょう。姉に瓜二つだと言われているので、僕の顔で想像してもらえれば」
光くんは笑顔で自分の顔を指さした。
それは美人で確定なんじゃないか?
そう思ったけど、何だか恥ずかしいので言うのはやめた。
これだけ可愛ければ女装を極めたくなっても仕方がないのかもしれない。
ただ、廃ビルに来るのは頂けない。この場所は転落事故もあったし、朽ちた機材や割れた窓ガラスなどが散らばっていて危ないところだ。
「女装は別に良いけどさ、危ないからここに来るのはやめなよ」
「女装は良いんですか」
「まぁ、似合ってるしね。似合いすぎて変質者に襲われそう」
「それは困ります」
「でしょ。ここも普通に危ないしね。結構前だけど、うちの学校の生徒もここで事故にあったらしいから。あの壁とか今にも崩れそうだし、近寄っちゃ駄目だよ」
「わかりました。奏先輩も危ないから来ちゃ駄目ですよ」
「来ないよ、怖いもん」
「わざわざ僕のことを追いかけてきたのに?」
「今回は特別!」
確かに、こんなところまで追いかけてくる俺も抜群に怪しい存在だ。
知り合いだったら良かったものの、これが見知らぬ少女だったら確実に不審者である。
そう考えると相手が光くんで良かったのかもしれない。
最後に「絶対に喋っちゃ駄目ですよ」と光くんに念押しされ、その場は別れた。
その後はランニングで廃ビル前を通ることもなく、部活で光くんに会った際も特に変わりはなかったので、俺はその時の出来事を忘れかけていた。
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