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数日後。
ホームルームも終わり、放課後の教室は帰り支度や部活に行く準備をしている生徒でざわざわしていた。
俺も今日は部活動の日だ。文芸部は他と比べるとゆるい部だが、何となく毎回参加している。
カバンに筆記用具やノートを詰めていると、クラスメイトに声をかけられた。
「奏~! 今度肝試し行かない? 夏も近いしさ」
「嫌だよ、怖い」
「でも、お前の好きそうな話だぞ」
「俺の?」
情けない話だが俺はオカルト系の話が苦手だ。
お化け屋敷やホラー映画を好む人が信じられない。そんな俺が、肝試しに喜んで参加するとでも思っているのだろうか。
「廃ビルに現れる美し過ぎる幽霊! 猫目でサラサラストレートの黒髪。ミステリアスな美少女らしいぞ」
「え」
それって。
どう考えても光くんのことだ。だが、そんなことは言えないのでクラスメイトの話に乗っかるフリをする。
「そ、それのどこが俺の好きな話なんだよ。幽霊だろ。普通に怖い」
「だってお前、猫目のミステリアスな子がタイプじゃん。三条とか」
「三条は関係ないだろ!」
三条は猫目のミステリアスな美少女で、好みの顔であることには間違いない。
間違いないが、今は俺の好みなんてどうでもいい話だ。
それよりも光くんだ。
学校で噂になってるなんて知らなかった。
もしかして、俺と出会った後もあの廃ビルに行っていたのだろうか。やめさせた方が良い気がする。
人の趣味にとやかく言う筋合いはないだろうが、もし噂が広まって肝試しに行く人間が出て来たらまずいのではないか。
実際、俺だってたった今肝試しに誘われた。
人に出会ってしまったら、絶対に良くないことが起こる。あれだけ可愛い子だ。興味本位で後をつけられたり、襲われたりする可能性だってある。光くんが嫌な思いをすることになるに違いない。
廃ビルに行かないように、きつく注意しなければ。
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