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月夜に秘密ごと
「絶対に秘密ですからね!」
「わかった、わかったから」
月が綺麗な夜。薄明りのロマンチックな風景。
俺の目の前には大きな猫目に涙を滲ませた、完璧な美少女がいた。
悲しくて泣いているのではない。きっと恥ずかしくて泣いているのだ。
なぜなら、目の前にいるのは美少女ではなく女装した少年だから。
「うぅ……奏先輩、何でこんなところにいるんですか」
「それはこっちのセリフだよ……」
夜の21時。
6月も後半となると、夜でも少し体を動かすと暑い。
俺たちがいるのは、住宅街から少し離れたところにある廃ビルの入り口だ。
周りは草木が鬱蒼としており、俺たち以外に人の気配はない。この廃ビルは過去に転落事故があり、長年放置されている。
いつもだったら俺もこんなところには来ない。
何故、今日に限ってこの場所にいるのかというと。
俺は日課のランニングでこの近くを走っていた。
普段使っている道が工事で通りづらくなっていた為、今日はいつもとは違うルートにした。
周りに民家や店がない場所で、何となく避けている道。人通りもほとんどない場所なのに、廃ビルへ向かう人影が見えた。
業者の人や警察官ではない。
長い黒髪とセーラー服のスカートが揺れていた。
何故か胸がざわついて、気が付いたら追いかけていた。
追いかける俺に気付いたのか、前にいる人物が後ろを振り返る。
「奏先輩……?」
「え? その声、光くん?」
少女だと思って追いかけていたのは、後輩である光くんだった。知り合いだったことにも驚いたが、少女ではなく少年だったことが衝撃的だった。
日頃から少女のように整った顔立ちをしているとは思っていたが、こうも完璧な女装を見せてくれるとは。
光くんは知り合いに見られたということが恥ずかしいらしく、真っ赤になって手で顔を隠している。
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