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「5」
「1、2、3、4、、、」
だいぶ慣れてはきたが、それでもまだどこかぎこちない。4を数えたあと、6を読み上げるまでの間に2枚捲らなければならないからだ。
それもこれも、年末に行われた総選挙で政権交代が行われたことに端を発する。新与党は所信表明演説で、世の中から「5」という数字の存在を抹消するという政策を掲げた。野党の猛反対を抑え込み、賛成多数で法案を成立させると即時実施したのだ。
それを受けて「5」という文字が街中の至る所から姿を消す。学校教育でも「4の次は6」という指針が定められ、違反者には厳しい罰則が課せられた。
暦も改編され、旧暦での5月の一ヶ月分は4月と6月にそれぞれ割り振られた。
それに伴い、旧暦での5月生まれだった人たちは、それぞれ該当する日に誕生日の変更を余儀なくされた。5月10日生まれだった人は、4月40日が誕生日である。
漢数字の「五」の文字も例外なく抹消され、五木姓は『六木』に、五十嵐姓は『六十嵐』への改姓を強制された。
また、史跡でさえ例外は許されず、歴史的にも有名な函館の五稜郭も名称変更された。これには有識者のあいだで猛抗議が起こったが、政府は断固として譲らず政策を押し進めた。なお、現在の名称は函館『六稜郭』である。星形の角が5つしかないにも拘わらずだ。
そんな独裁的とも言える政府官僚の頭を最後まで悩ませたのは時刻である。安易に5の付く時刻を削除して1日22時間制にしてしまっては、月の満ち欠け、潮の満ち引きとのバランスが崩れてしまう。
時刻のみ時限的に「5」の使用を許可されているが、それも時間の問題だろう。この難問は本国会での最重要議題に掲げられているからだ。議論は継続して行われているが、関係者の話によると「5」の抜けた空白の1時間は『四六時』という名称に決定しそうだとか。
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