13人が本棚に入れています
本棚に追加
あれから何年経ったのだろう。
今頃、あなたもどこかで舞い散る花びらを見ているのでしょうか。
僕ではない誰かの上に降り積もる花びらを、優しく払ってあげているのでしょうか。
満開の桜に、激しい雨雫が叩きつける。
この雨が止む頃には、おそらく桜はすべて散ってしまっているだろう。
心の中に淀む澱も、激しい雨がすべて洗い流してくれたらいいのに。
何もかも綺麗さっぱりなくなってしまえばいいのに。
伊織は窓の外を眺めながら思う。
桜の香りが、毎年毎年律儀に、苦味を伴う儚い思い出を運んでくる。
花見をしたのは後にも先にもあれきりだ。
またいつか、あの時のような気持ちで、桜を愛でられる日が来るのだろうか。
そのとき、隣には誰がいるのだろうか。
【おわり】
最初のコメントを投稿しよう!