歌う、歌う、歌い続ける

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 とある冬のことでした。  リリーはデスクに薬草を広げ、薬を作っていました。 「今町で病が流行っているらしいの。アタシの薬が役に立てばいいのだけど……」 「リリーのお薬は万能です! 皆さんきっと喜ばれますよ!」  実際この洋館には時折リリーの薬を求めて人間が訪れていました。人間達がリリーの調剤の腕を褒めるので、わたしはそれを自分のことの様に誇らしく思っていたのです。 ──ドン、ドン、ドン!!  不意に、玄関の扉を叩く音が聞こえてきました。 「きっとお薬を買いに来たお客様ですね!」  1階へと向かう為に部屋を出ようとした時でした。リリーがわたしの腕を掴むのです。 「……行ったら駄目、」  リリーは青い顔をして、唇を震わせていました。  どうして駄目なのか……そう訊ねようとした時、バンッ!! と大きな音がしました。 「リリー、お客様が入ってこられましたよ。早くお出迎えしないと」  下から声が聞こえてきます。 「おい、出てこい魔女め! 病はお前の仕業だろう!」 「お前を燃やせば病気もなくなる!」  それはとても大きな声でしたが、何を言っているかいまいち理解が出来ませんでした。  その内階段をのぼってくる足音が聞こえてきます。 「リーナ。アタシのお願い、聞いてくれる?」  唐突にリリーが珍しいことを言うので、彼女に頼られて嬉しいわたしは大きく頷きました。 「勿論です!」 「わたしが"いいよ"って言うまで、貴女はこの部屋を出ないでね」  リリーはそう言うと、ひとり部屋を出て行きました。  そして彼女が戻ってくることはありませんでした。  
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