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泡沫夢幻 ~ほうまつむげん~
四月一日は、エイプリルフール。
人をイライラさせない、怒らせない、不幸にしないというのが、エイプリルフールについてもいい嘘の条件。
その日のうちについた嘘についてのネタばらしをして笑いあい、ちょっとしたバカ騒ぎをする、それがエイプリルフールだ。
罪にならない些細な嘘。
それで聞いた誰かを笑顔にできるなら、そんなバカ騒ぎも悪くはないのかもしれないけれど。
「好きです」
「もう、それ、嘘なんでしょ? 今日がエイプリルフールなのは知っているんだから。騙されてあげないわよ、残念だったわね」
苦笑を浮かべながらそう告げた意中の相手は、固まってしまっていた俺の頭を撫でて去っていった。
勇気を出して告白した日がエイプリルフールだったなんて、物語になっていそうな失敗をしてしまった俺は、無意識のうちに人通りが少ない場所へと歩いていたらしく、海が見える砂浜に来ていた。
人は、気持ちを整理したい時に海を見たくなる習性でもあるのだろうか……悩みを抱えた人が海へ来るのはわりとテンプレだよなとふと思う。
「午前中についた嘘をネタばらししないと真実になるっていうのは、何の物語だったかなぁ……?」
俺の告白をエイプリルフールの嘘だと言ったのは、俺の告白を断るための彼女なりの優しさだったのだと表情で察した。
今日がエイプリルフールじゃなかったら、「ごめんなさい」とかテンプレなセリフで断られていたのだろう。
「ペンギンが空を飛んだとか、すごい映像技術のものが過去に外国でエイプリルフールにテレビのニュースで流れたんだっけ……」
泳ぐために進化した結果、飛べない鳥になったペンギン。
「ペンギンなぁ……俺もファーストペンギンみたいになれるかなぁ?」
捕食者が潜んでいるかもしれない危険な海に、真っ先に飛び込む最初のペンギンはファーストペンギンと呼ばれている。
その一匹は、海に捕食者が潜んでいた場合は真っ先に狙われてしまうことになるが、後続の仲間に捕食者が海に潜んでいたことは伝わるだろう。
危険はあるが、誰よりも先に多くの餌にありつけるチャンスを掴む可能性もあるのがファーストペンギンだ。
危険かもしれない海へと先陣を斬るかのように飛び込み仲間に道を示す、そういう存在なのだと俺は思っている。
「実際のファーストペンギンは、お前が思っているようなものでもないが……まあいいか、体験してみりゃわかるだろう」
誰もいなかったはずの砂浜。
気配も無かったのに突然背後から聞こえた声に驚いて振り向けば、砂浜から海を見据えていた俺と同じくらいの大きさの巨大なペンギンが、つぶらな瞳で俺を見ていた。
「……ペンギン?」
着ぐるみか?
「夢のねえガキだな。まあ、幼児のくせに大学生に告白して困らせてたマセガキだしな」
ペンギン(仮)は、俺を見据えて首をかしげると、くるっとうしろが見えるように一回転して再び俺へと視線を向けた。
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