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「こういうことだ。我が愛くるしいボディは、着ぐるみなどではないと言っておこう」
何がこういうことなのかはわからないが、一回転してくれたどこにもファスナーのようなものは無かったし、頭も取れそうなつくりではない。
「頭が取れそうとか物騒なこと考えるなよ。着ぐるみという概念がない純粋なお子さまだって世の中にはいるんだぞ。そういう純粋な子どもたちの夢を壊しちゃいけません。めっ、だぞ?」
何で俺は、心の声を読まれている上に、ペンギン(仮)にお叱りを受けているのだろうか?
さすがに俺も、着ぐるみに中の人がいると知らないやつらの前では着ぐるみとか言わない。
暑い日に見かけると中の人が熱中症にならないか見ていて心配になるが声には出していないだろう。
ペンギン(仮)に、勝手に心を読まれただけだ。
「おう、そういやそうか。そりゃ悪ぃ。我々のような存在には心の声も普通の会話と同じように聞こえてくるんでな、つい反応しちまうんだ。……っと、話が逸れたな。それじゃあ行くか」
どこへと問いかける間も、知らない人(見た目は巨大ペンギンで人ではないのかもしれないが)についていってはいけないと言われていると告げる間もなく、俺の意識は、そこで一度途切れたんだ。
気がついたら、俺のまわりはペンギンだらけで、足元が雪と氷なのを認識した時に、自分の姿もペンギンになっていることに気づいた。
え、なにこれ?
夢? 夢しか考えられないけれど……。
混乱している間にも、俺は近くにいるペンギンたちが前に進もうとする流れに押されて自分の意志とは関係なく進んでしまっている。
ちょっ、待って、この先海だよ!?
そんなに押されたら落ち……っ。
落ちると思った瞬間には、既に海に落ちていた。
「よかったな。ファーストペンギンになれたぞ」
ペンギン(仮)として出会ったあいつの姿は見えないけれど、頭の中に声だけが響いてくる。
ファーストペンギンって、俺は近くにいたペンギンたちに押されて海に落ちただけで……。
「全てとは言わないが、ファーストペンギンなんて、大抵そんなものだ。自分から真っ先に海に飛び込んでいるほうが珍しいんじゃないか?」
そんな夢も希望もないことを知りたくなかった……。
「だから言ったろ? 実際のファーストペンギンは、お前が思っているようなものじゃないって」
その声を合図にするかのように、俺の意識は再び途切れた。
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