6人が本棚に入れています
本棚に追加
玉響 ~たまゆら~
ほんのわずかな時間だったのだろう。
気がついた俺は、再び砂浜に立ち海を眺めていた。
周囲を見回してみるけれど、さっきまでいたはずのペンギン(仮)の姿はどこにもない。
「まさかの白昼夢?」
俺自身が知らなかったファーストペンギンの実態なんて、俺が夢として見たのもおかしな話だが。
夢の中のペンギン姿ではなく、元の幼児のもみじのようなお手てに戻っている自分の手へと視線を移してなんとなく眺めてみる。
「俺がこうして存在しているってことは、転生したってこと……なんだろうな」
大学生のまま時が止まってしまっていた彼女を見かけた時に、それを思い出した。
他の人には見えていない、けれども何日経過しても、あの時のまま時間を止めてそこに存在し続ける彼女をそのままにはしておけなかったんだ。
「エイプリルフール……命日でもあったな」
今の俺に転生する前の俺がその命を終えた日。
何の物語を読んだのか忘れてしまったけれど、エイプリルフールの嘘は午前中にネタばらしをしなければ真実になるなんて話を真似て彼女に告白した日も四月一日だった。
彼女と恋人になれて浮かれていて、注意力が散漫になっていたのは否定できない。
強風に煽られ制御不能になり横転したトラックに反応できず、そのまま荷台に押し潰されて、俺はそのまま命を落とした。
他の人には見えない彼女があの日の姿のままだったのは、彼女の命もあの時に潰えてしまっていたからなのだろう。
気づいてもらえないかもしれない。
それでももう一度、俺の想いを伝えたかった。
「愛していたんだ。誰よりも……」
一緒に逝くことはできないのに、自分の想いだけ伝えるなんて、俺は傲慢だな。
事故現場ではなく、俺が告白したその場所を通るといつも空を見上げている彼女がいたから……今日は勇気を出して告白したんだ。
玉砕したけれどな。
「マセガキ……まあ、そうなるか。見知らぬ幼児に告白されても困るよなぁ」
俺をそう呼んだペンギン(仮)の言葉が頭をよぎった。
あの喋るペンギン(仮)は、俺の妄想が生み出したイマジナリーフレンドとかいうやつだったのだろうか?
もしかして、彼女も?
「困ったように笑いながら、俺の頭を撫でてくれた彼女のあの手は、あたたかかったんだけど……あれも夢だったのか?」
まあでも、俺の頭を撫でてくれた彼女は、俺に小さく手を振りながら笑顔を浮かべて光に包まれながら消えたから、成仏できたのだろうと思っておこう。
あのまま、あの場所でいつまでも留まり続けているよりは……ずっといい。
最初のコメントを投稿しよう!