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「やっべ、今世の俺、まだ幼児だったわ。井戸端会議が長いからって勝手に歩き回っちゃまずいよな。そろそろ戻るか」
慌てて砂浜から公園まで戻ったけれど、どうやら親同士の井戸端会議は続いていたようで、公園を抜け出したことはバレていないようだった。
それはそれでどうなんだとも思うが、完璧な人間なんてこの世にはいないんだ。
たまには失敗だってしてしまう、それが人間だ、俺がいなくなっていたことに気付いていない今世の俺の親を責めないでほしい。
遠くに親たちの姿を見つけ、他の人には姿が見えていなかった彼女がいつも空を見上げていた草原……じゃなくて芝生の丘かな、これは。
手入れが行き届いていなくて、小さな草花が咲いているけれど。
そこに、見知らぬ幼女がぽつんと一人で座っていた。
「キミは、みんなと遊ばないの?」
地面をじっと見つめている幼女の近くまで行って問いかければ、幼女は俺へと視線を向けたあと、棒だけになったアイスを見て、とけて地面に落ちてしまったのだろうアイスへと再び視線を戻した。
「あいしゅ……ありしゃんのえさになったみたい」
「そうなんだ」
アイスが落ちてしまって泣き出す子も多いのに、その幼女はじっと、落ちたアイスに集まって来ている蟻を見ている。
「みじゅでながすとありしゃんもながれちゃう……どうしよう……」
ああ、アイスを落としてしまった場所を水で洗い流したいけれど、蟻まで流してしまうんじゃないかと動けずにいたのか。
「蟻がこわくないの?」
「こわいよ。でも、ありしゃんもいきているの」
「……そっか」
優しい子だな。
子どもってさ、無邪気さゆえの悪意のない残酷さとかも持っていたりするのに。
前世の俺には妹がいたんだけどさ、三歳にも満たなかった頃かな、山のほうに行くことがあって大きな蟻を見つけてさ、小さい時って地面も近いし、山にいる蟻ってわりと大きいし、よっぽど怖かったのか泣き出しちゃって。
そのあと、もう少し成長した頃、家の庭で蟻を見かけてさ、「このやろ、このやろ」って言いながら踏みつけだしたんだよ。
最後に、「おまえなんかもうこわくないぞ」って言っていたから、山で見た大きな蟻がよっぽど怖かったんだろうな。
親が庭に作られた蟻の巣に駆除の薬剤を撒いていた時だったから、命を大事にとか言える状況でもなかったんだけど……あの時に困惑した記憶はある。
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