玉響 ~たまゆら~

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 そう思うと、蟻の命でさえ尊重しようとする優しい幼女に好感が持てた。 「それじゃあ、ここは蟻がアイスを運び終わるまでそのままでいいんじゃないかな? キミは手を洗いに行く? 今なら俺が水道の蛇口をひねってあげられるよ」 「ん、おねがいしゅるの」  俺は、幼女と共に公園に設置された水道のところへゆっくりと向かう。  今日見たはずの彼女やペンギン(仮)が、夢か現か……もうどうでもいいや。  転生したらしいしな。  今世の俺として、しっかりと生きていかないと。 「あのね……じぇんしぇのわたしに、しゅきっていってくれて、うれしかったの」 「ふぇ!?」  驚いて変な声が出たけれど……「前世の私」って言ったように聞こえたんだから仕方がないだろう。 「きょうは、えいぷりるふーるだけど……でも、うしょじゃなかったんだよね?」 「ああ……俺は、そのつもりで告白したけれど……え、待って、えぇ!?」  だけど……穏やかに微笑んでいる幼女が嘘をついているようにも見えなくて。 「おっきなぺんぎんしゃんは、てんししゃまでね、しにがみしゃんともよばれていたの」  天使で死神?  おっきなペンギンさんって、俺が見た巨大なペンギン(仮)と一緒なのかな? 「あなたが、じぇんしぇのわたしにしゅきだっていってくれたから、じゃんりゅーしねんは、ぶじにきえたっていっていたの」  じゃんりゅーしねん……残留思念か!?  俺が見た彼女は、幽霊とは違った……のか?  この幼女が、前世のわたしとか言っているくらいだし、元々成仏はしていたってことなんだろう。  天使も死神も、あの世に死者の魂を運ぶ役目を担うのは同じ……か。  呼び名の違いは、地域差とか、目撃した者によるってところなんだろうなぁ。 「エイプリルフールに起きた、うたかたの夢みたいなできごと、か。ペンギン(仮)からすれば、人間の一生なんて『たまゆら』なんだろうな」 「たまゆら? んーと……えーっと……あ、ほんのわずかなじかんのことなの。じぇんしぇのわたしのきおくにあったのー」  どうも、俺がこうもはっきりと前世の人格が強く表に出てしまっているのとは違い、彼女は今世の幼女の人格のほうが強く出ているらしい。  けれども、それでもいいか。  俺だけ転生しているよりも、彼女も転生していて、再び同じ時間を生きることができるほうがずっといい。  この幼女に、久しぶりって言うのは違う気がする。  今世の人生、「はじめまして」から彼女との関係を再び紡いで行こう。  エイプリルフール。  嘘か真か、夢か現か。  それでもきっと、再び紡がれたこの縁は、あのペンギン(仮)のお節介な気がするから、いつかまた会えたらその時には、「ありがとう」くらい伝えられるといいな。 (END)
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