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毒蛇姫は受胎を望む
警察庁祓魔課の発生学 もう1人の毒蛇姫編新装版
ベビーベッドで寝かされた、心底可愛い弟を見つめ、小学校2年生の姉、勘解由小路家初姫たる毒蛇小姫、碧は、うきゅっとした萌顔を見せていた。
「あ~。ママ、何でこんなに可愛いの?緑♡お姉ちゃんでちゅよー」
勘解由小路家の次男、緑は、ぼんやり天井と、うるさい姉を見つめていた。
「マジで萌♡ねえママ、緑いつ大きくなるの?緑連れて子供服着せたげたい」
そうね。ベビー服を編みながら、幸せいっぱいの母親、毒蛇姫勘解由小路真琴は言った。
「大きくなる、というのが、どういう意味なのか解らないけれど、多分、立ってお手手繋いで歩く、というなら、きっと早いと思うわよ?碧ちゃんなんか、1歳になる前にはもう、走っていたから。口を利いたのは、多分生後2ヶ月くらいだったわね。お船に乗ったでしょう?パパとママと3人で」
マジか?まあ何となく覚えてる。ママの浮気疑惑があって、パパが凄いションボリしてたわね。
「て、氷魂の魔眼が発動した時じゃん。パパに私を見ろってやったのよね。何か、三鷹さんとか、婆ちゃんに抱かれた記憶が。凄く気持ちよかった。年の功って奴か」
「それは、降魔さんの恩師の教授の奥様ね。アスタさんだったわね?お元気だといいけれど」
あああ。何か、パパが爺さんにロキ、とか何か言ってなかったっけ?ロキって神じゃんか。神の知り合い、とかいるの?パパ。
「クイーン・エーゲ号の事件は、私も全て把握していないけれど、きっと、碧ちゃんにはいいお勉強になるかも知れないわね」
ああ、何か、そんな名前だった気もする。
ドンブラドンブラして、お船が沈んで、流紫降が来たのよね。何か。
生後2ヶ月の記憶をぼんやり反芻したり、それをのほほんと告げる母親。
これが、勘解由小路家の日常だった。
「ああ。ところで、碧ちゃん?」
うえ?何このママの発情臭。
しかも、変な危機センサーまで働いてるし。
「この前ね?ママ、降魔さんと、いっぱい、い~っぱい、赤ちゃんを作ろうとしたのね?」
「ああはいはい。南西諸島のコテージ買ったんでしょ?ってか、子供に何て話するの?」
「まあ、南西諸島では赤ちゃん出来なかったんだけれど、もし、もしよ?緑くんの弟か妹出来たら、碧ちゃん、嬉しい?ママ、250回くらい、お願いしたのだけど」
「3泊して帰ってきたでしょ?3日で250回って、そんなに出来る人間が出てくる話なんか、読んだことないし」
マルキ・ド・サドにも出てこないし。
「でもね?きっと、きっと可愛いもの。5人目、碧ちゃんも祈っていて?」
いいけど、センサー鳴り止まないんだけど。
碧は、即答出来なかった。
これは、夏に起きた事件の話。
私、勘解由小路真琴の後悔の物語。
子供を望み続けた私は、結果そこを敵につけ込まれ、夫を深く傷つけてしまった話。
一緒に生きよう。俺と。
そして、夫の愛が、最高の多幸感をもたらした話でもあった。
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