第2話

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第2話

「ゴミ、ちゃんと持って帰りました?」 「ん? ゴミ? あー……」  俺は、今更ながらゴミを放置してきたことに気づく。  酔っていたのも相まって、缶やらお菓子の袋やらを持って帰るのを忘れていたのだ。 「そういや、そのまま置いてきちゃったな」 「駄目ですよ、先輩。ちゃんと片付けないと」 「いやー、うっかりしてたわ」  苦笑いを浮かべてそう返しつつ、俺は去年も同じようにゴミを放置してきたことを思い出す。 「じゃあ、俺こっちだから」 「はい、また明日」  宮田と別れた俺は、駅を出て歩き始める。すると、不意に背後から話しかけられた。 「あのー」  振り向くと、そこには若い女性がいた。見たところ、年齢は二十代前半だろうか。なかなかの美人だ。  艶やかな黒髪が風になびき、その美しさを際立たせている。 「はい? なんでしょうか?」  不思議に思いながらも、そう尋ねる。すると、女性は意を決したように話を切り出した。 「……私のこと、覚えていませんか?」 「え? うーん……すいません、ちょっと分からないですね」  そう返すと、女性は悲痛な表情を浮かべる。 「本当に覚えてないんですか? あなた、私を捨てたんですよ? ひどい……私、あなたのためにあんなに尽くしたのに。なのに、どうして私を置いて去っていったんですか?」  女性は突然まくし立てたかと思えば、今度はその場に泣き崩れる。 「あの……一体、なんの話ですか? 全く身に覚えがないんですけど……」  彼女の話しぶりから察するに、おそらく俺のことを元彼か何かだと勘違いしているのだろう。  そう思った俺は、誤解を解こうと口を開く。 「もしかして、誰かと勘違いしていませんか? 俺、あなたとは初対面だと思うんですが……」  俺が弁解するように言うと、彼女はハンカチで涙を拭いながら訴えかけてくる。 「初対面じゃありません! 私、あなたのために全てを捧げたんですよ! 私には、もう何も残っていないのに……なのに、どうしてあんなひどい捨て方をしたんですか? ちゃんと、責任取ってください!」  そう詰め寄られ、俺は思わず後ずさった。 「い、いやー……そう言われましても……」  何と答えるべきか悩んでいると、女性はとんでもないことを言い始める。 「もう、絶対に逃がしませんからね? とりあえず、あなたの家に行きましょう。そこで、ゆっくりとお話を聞かせてもらいます!」 「は、はぁ……? なんでそんなこと……」  呆気に取られていると、彼女は俺の腕にしがみつき強引に引っ張ろうとする。 「さあ、早く行きますよ!」 「ちょ、ちょっと待ってください! 人違いですから! だから、離してくださ──」  必死に抵抗したものの、女性とは思えないほどの強い力で引っ張られてしまう。 「あいたたた! 痛い! 腕がもげる!」  ずるずると引っ張られ、気づけば自分の家の前。女性は強引に上がり込むと、室内を見渡した。 「なんですか、この部屋。物凄く散らかっていますね」 「ちょっと、勝手に入られたら困ります!」  力づくで引き剥がすと、女性は不服そうな表情を浮かべながら俺に向かって訴えかけた。 「どうして、私を拒むんですか? あなたには、最後まで責任を持ってもらわないと困るんですよ」 「そ、そんなこと言われても……」  つまり、結婚して一生面倒見ろという意味なのだろうか?  ここまで執着されると、恐怖を感じる。そんなことを考えつつ後ずさっていると、とうとう壁に背中がついた。  次の瞬間。まるで絶体絶命の俺に助け船を出すかのように、突然インターホンが鳴った。
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