未来を見る

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翌日、俺たちは隠れ家でソワソワと来客を待っていた。昨日の結果を直接伝えたいと、大佐がここに来ることになっているのだ。 「お茶とお菓子これでいいかな?甘い物より辛いもののほうが好きかな?」 「クキ、お茶会にくるんじゃないぞ」 「だって粗相があって協力者の件が無くなったらイヤじゃない」 ミリッサを迎える時はこんなに緊張してなかったのに、やはり地上への協力がかかってるとなるとみんな緊張している。 そうやってバタバタしていると玄関がノックされた。 「ミリッサだ。大佐をお連れした」 俺が扉を開けに行く。ようこそと言いかけて、視線がどんどん上に上がった。 「君がヒスイ君だね。私はベリアだ。よろしく」 デ……デカい。ミリッサの後ろには見上げるほどの大きな女性が立っていた。鍛えられた筋肉は逞しく、彼女の作る影に俺がすっぽりおさまるほどだ。 「………あ、失礼しました。ヒスイです。よろしくお願いします」 「はっはっは。そう緊張するな。取って食ったりはせん」 豪快に笑いながら肩を思いっきり叩かれる。女版グライみたいな人だな。 「さて、改めて。今回は黒山羊の残党狩りに協力いただき礼を言う」 挨拶も済んだところでテーブルに移動して本題に入った。ミリッサとベリアが並んで座り、トーカと俺は向かいに座っている。クキはお茶の用意をしにキッチンに行ってしまった。 「こちらこそ、協力者の件に名乗りをあげていただき感謝しています」 トーカが大人モードに入っている。なぜ普段からこんなふうにシャキッとできないのだろうか。 「その件だが、喜んで協力させてもらうよ。ミリッサとマイトの報告を聞く限り、なかなか根性のある少年じゃないか。我々の力が必要な時は遠慮なく言いたまえ」 「ありがとうございます!」 ベリアが力いっぱいの笑顔で承諾の意を伝えてくれた。横ではミリッサが「良かったな、ヒスイ君」と微笑んでくれている。 「時に、マイトの報告にあったジンと君との関係はなんなのかね」 ベリアが先ほどとは変わって真剣な表情になる。 「関係………ですか?」 「ああ。疑ってるわけではないんだ。マイトからの報告で仲間ではないことはわかっている。ただ君に異常な執着があるように見えたと言っていたのでね」 「………わからないんです。なぜ俺にこだわるのか。優しいねと仲間に誘ってきたり。テラスタワーについて聞きたかったらいつでもおいでと言われたり。ヤドについては何も知らないみたいなんですけど」 「我々もあの男については調べているが不可解な点も多い。何をしてくるかわからないヤツだ。充分気をつけたまえよ」 トーカが俺の首に下がっている袋をチラッと見た。 「ありがとうございます」 「うん。ではそろそろ退散させてもらおうか」 ベリアが席を立とうとすると、ちょうどキッチンからクキが出てきた。せっかくお茶を用意したのに〜と悲しむクキに笑いながら、ベリアはもう一度椅子に座った。 「そういえばマイトが君の動きを褒めていたが、誰かに師事しているのかね?」 お茶を飲みながら世間話をしていると、ベリアにこんなことを聞かれた。 「はい。格闘技など色々教えてくれる師匠がいます」 「そうか。いい笑顔だ。きっと良い師なのだろうな」 「褒めてもらえてアルアも喜びます」 ベリアの手が止まる。不思議そうな顔をしている。 「アルア?君の師はアルアというのか?」 「はい?そうですが?」 「もしかして、5年前まで軍にいたのではないか?」 「はい。そう聞いてます」 途端にベリアが大笑いしだした。 「はっはっは。そうか。あいつの弟子か!どうりで強いわけだ!」 ベリアの反応を見て思い出す。たしか大切な友人が軍にいるってアルアが言っていた。 「あなたが………アルアの大切な友人?」 「なんだ?私の事を話していたのか?あいつとは同郷でな。一緒に軍に入ったんだ。互いに切磋琢磨してな。怪我で軍を辞めてからもしばらくは連絡をとってたんだが、なかなかお互い忙しくてな。そうか。あいつ、こんな弟子を育ててたのか」 面白くて堪らないといった感じでベリアは笑い続けていた。アルアが友人のことを話した時の顔を思い出す。お互いにただただ相手のことを想っている顔だ。 なんだか無性にイッカとウノに会いたくなった。 ひとしきり盛り上がり、いよいよ帰るかとなってベリア達を玄関に見送りに出た。 「いや、思わぬ嬉しい話が聞けて良かったよ。ありがとう」 「こちらこそ、アルアに会ったらベリアさんのこと話します」 「……君は不思議な少年だな」 ベリアがまっすぐに俺を見てくる。 「アルアは軍を辞めて未来を失ったようだった。だが今、君という未来を育てている。私との縁も再び繋いでくれた。君は人と何かを繋ぐ不思議な力があるのかもしれないな」 ありがとうともう一度礼を言って、ベリアは去って行った。 「……俺にそんな力があるなら、ナズが望んだサカドって人との繋がりをもう一度結べるかな」 ポツリとでた本音だった。 「そうだね。大丈夫。きっとお前は金貨を届けに地上へ行けるさ」 トーカが優しく肩に手を置く。 これで協力者は2人目。少しずつ地上に近づいているのだろうか。
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