豊穣と無常の花

1/10
前へ
/10ページ
次へ
 「あれ、草介(そうすけ)は?」  「さあ、またどっかで(なま)けてるんじゃないかい? あの馬鹿息子…そろそろ忙しくなる時期だってのに…。 昼時だし美世(みよ)、草介を呼んできてくれるかい?」  「はーい、おばちゃん、安心して。 すぐに捕まえてきてあげるから。 草介(そうすけ)ったら、昔から(なま)け者で、本当に仕方がない奴ね。」  「美世(みよ)には昔から、草介(そうすけ)の事で面倒かけてばかりだねぇ…」  「気にしないで。好きでやってることだから。」  美世(みよ)は、どうせいつもの場所だろうと歩き出す。  (みやこ)から離れた田舎の村。 その村は山奥にあり、閉ざされた場所にある。  美世は生まれてから村を出たことがなく、村の者達は皆、家族のようなものだ。 いつもの場所に、草介はいた。  そこは村のはじの方にあって、何も無いので人気がない。 今の時期は桜が綺麗に咲いている。 いつもの草介の(なま)け場所だった。  「草介、またここにいた。 よく()りもせずに(なま)けられるわね。」 草介は美世の顔を見て、気だるげにあくびを噛み殺す。  「…そういうお前は、いつも俺が気持ちよく寝てると、決まって現れる。」  草介とは村で唯一の同い年で、幼馴染みだった。 生まれた時からずっと、兄妹のように接してきた。  草介の母はこの村の人間だが、父は(みやこ)から来た者なので、草介は村で浮いている。 友達も美世くらいしかいないのだ。  「いつも(なま)けてるから注意してあげてるのに。 まさか、わざとだったりしないわよね!?」 草介は意地が悪い顔で首を(かし)げていた。 まさかの確信犯だ。  「草介~!」    「おっと、美世が怒った。怖い怖い。」 そう言いながら逃げ出す草介を、美世は追いかけていた。  「逃げないでよね~!」  「やなこった。」  昔からどこか冷めていて、人生を舐めたような(つら)をしていて可愛(かわい)げがない。 だけど昔からそんな草介を、美世は放って置けなかった。  「あ、こら!中々(なかなか)戻ってこないと思ったら草介と美世! 二人とも、遊んでないで昼飯にするよ!」  「あー母ちゃんに見つかった。美世、お前のせいだからな。」  「そもそも(なま)けていたのはそっちでしょ。 自業自得よ。」  草介の母に見つかり、美世と草介は顔を見合わせて笑みを(こぼ)してきた。  昔から、妙に気にかかって仕方がない幼馴染みだった。 いつかは、草介となら夫婦(めおと)になるのも悪くはないのかなと、美世はそう思ってた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加