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美世と草介が十五になる頃、そろそろ二人が夫婦になるか、と田舎の村では噂が広がっていた。
美世もまんざらではなかった。
草介も同じのように見えた。
二人で偶然触れ合えば恥じらいが起き、周囲からは微笑ましい目で見られていた。
他の者ならお断りだが、幼馴染みの草介なら嫌じゃない。
そう思っていたその年、村は飢饉に襲われた。
自然災害で不作で、村の者達が何人も亡くなった。
村では豊作祈願や、田の神を鎮める為、あらゆる事が行われた。
捧げ物としてわずかな食料、それから動物の亡骸などを捧げ、祭事が行われた。
ひたすら神頼みだ。
だが疫病も流行り、思うように上手くはいかなかった。
美世の下の弟が死に、草介の母も亡くなって、村の空気は絶望的だった。
今の状況では、何が起きてもおかしくはなかった。
ある日、美世が歩いていた時、草介が畑仕事をしているのを見かけた。
「草介、真面目にやってるじゃない。」
「…こういう時だからな。
怠けてる場合じゃないのは、俺にもわかる。」
草介はどれほど長時間、仕事をしていたのだろう。
汗を掻き、疲弊しているように見えた。
前に見かけた時も、必死で働いていた記憶がある。それは今や美世も同じ事だが。
草介も、母がいなくなった分を埋めようと必死なのだろう。
家族を食べさせてやらないといけないから。
「精を出すのも大事だけど、たまには休憩をするべきじゃない?」
草介が目を瞬かせた。
「まさか、お前の口からそんな言葉が出るとは…。」
「時と場合によるわよ。
働きっぱなしじゃ、二の舞になるのも時間の問題でしょ。」
「どうしてわざわざこんな所で休んでるの?」
「…ここは、昔から落ち着くからだ。」
草介が休憩すると決めたのは、いつもの場所だった。
そろそろ桜が咲く時期だからか、早くも開花した桜が覗いている。
「…確かに、綺麗だけど。」
美世がわずかな食料で作った握り飯を、草介が食べる。
美世は桜に目を向けていた。
最近、色々な事がありすぎて、ゆっくりと自然や花に目を向ける余裕もなかった。
澄んだ空気の中、青い空は変わらずに広がり、桜は、どんな状況でも綺麗に咲いている。
大勢死んでいるのに。
草介が手を伸ばし、美世の頬に触れる。
目を向けると、草介がじっと見ていて、気恥ずかしさに美世は目をそらしていた。
「…なによ。」
「昔から思っていた。美世、お前は桜が似合う。」
普段滅多に笑わない癖に、微かに淡い笑みを溢して言う草介。
美世は赤面する。
「…そ、そう?そんな風におだてても、無駄なんだから。」
「正直に言ってる。」
「ど、どうして…っ?」
これは、少し試しすぎたか。
狼狽え、戸惑いがちに目を向けた美世。
草介は動揺もせず、美世の目を捉えて離さなかった。
「…美世が好きだからだ。」
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