豊穣と無常の花

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今すぐどうにかなりそうだった。 胸が破裂しそうなまでに跳ねている。 顔もきっと、隠せないほど赤い。  「わ、私も…」 『草介が好き。』そう言おうとした。 不意に草介が美世の後方に目を向ける。  「…どうかした?」 美世は目を向けて、怪訝(けげん)に眉を(ひそ)めていた。 そこにいたのは村の者達だった。  「そんなにぞろぞろと、どうした?珍しい。 なにか、あったのか?」  「二人揃っていて、丁度良かった。 今、村長と話をつけていたところでな。」  「…何の?」 なんとなく不穏な予感がして、美世と草介は固まる。  「貴重な食料や、動物を田の神様に捧げても、飢饉(ききん)は抑えられない。 今年も不作だったら、我らはいよいよ死に絶えるだろう。 田の神様に戻ってきて貰う為に、花見の祭事を行い、その時に生け贄を捧げる事になった。」  「生け贄…?動物、じゃないよな…?」 草介が(つぶや)き、眉を(ひそ)めた。  その時代、花見は豊作祈願の為に行われるともされた。 農民の間ではもっぱらそちらの方が主流だった。 冬の間にその地を去った田の神を呼び戻す為に、桜の木に集まり、祭りを行うのだ。 普通なら軽い捧げ物を飾り、村人が酒を飲んでどんちゃん騒ぎをする口実になっていたのだが、彼らの態度は不穏だった。 今の余裕がない村人達なら、人さえも生け贄に捧げかねない恐ろしさがあった。  「村の若い奴を田の神様に捧げる事にした。 草介、お前をな。」  「…は?」  「ちょっと、どういう事!?」 黙っていた美世だが、いよいよ我慢がならなくなる。 美世は草介の手を握り、村人達を睨む。  「草介を神様に捧げる?絶対にさせない。 …草介は私と夫婦(めおと)になるの。 さっき、約束したもの。ね、そうよね?」 美世が草介を見つめて言えば、草介は目を(またた)かせた。  「美世…。ああ、そうだ。だから…」 言いかけた草介を、(さえぎ)るように村の者が言った。    「平常時ならそれでも良かったが、今の状況でお前達を夫婦(めおと)にするわけにはいかない。」  「それなら、道連れでも良いわ。 草介を生け贄にするなら、私だって一緒よ。」 二人なら、生け贄にされる前に最悪逃げたら良い。 とにかく草介一人を生け贄にさせるわけにはいかない。 その時、手を繋ぐ草介の力が強まった。 目を向けると、草介は真剣に村の者達を見つめていた。    「…美世を生け贄にするかどうかは別にしても、せめて…最後の時まで美世と一緒に居させてくれ。俺は美世と夫婦(めおと)になりたい。」
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