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久々に感じる灯希の温もりは、巽の肌をより一層敏感にさせた。ただ指先で首筋を撫でられているだけなのにぞくぞくと肌はわななき、まだ触れられてもいない胸の先がつんと尖っている。それだけで恥ずかしくていたたまれなくて、巽はベッドの上の自分の体に馬乗りになっている灯希に、あのさ、と話しかけた。
灯希が着ていたシャツを脱ぎながら、視線をこちらに向ける。前髪が一瞬上がり、下から見たその顔は妙に大人びていて、巽の心臓は破裂しそうなくらい大きく高鳴る。
「あ、の……家出してる間、どこに、いたんだ?」
灯希が家を出て、初めは友達の家にでもいるのだろうなんて思っていた。けれど一日経つごとに、本当は彼女がいて、その子の家にいるのではないか、なんて想像もして、落ち込んだりもしたのだ。やっぱりちゃんと事実を知って安心したい。
「ホテルだけど」
「ホテ……だれ、と……?」
意外な言葉が返ってきて巽は灯希を見上げた。
ホテルって、もしかしたら女の子と泊まっていたのだろうか。それとも年上の誰かが灯希を拾って囲うようなことをしていたのだろうか。そう考えただけで、巽の視界が潤んでくる。
「誰って……同じ研究室の学生、かな?」
「学生……その子のこと……」
好きなのか、と聞こうとした巽の唇を灯希がキスで塞ぐ。そのキスはどんどん深くなり、口の中を器用な舌で舐め廻され、巽の舌を吸い込んでから離れていく。
「ねえ、ついさっき言ったこと、もう忘れたの? 俺はずっと巽さんが好きなの」
「けど……」
「それに、随分前だけど話したよ? 大学の論文発表の合宿で一週間いないよって話」
「え……」
驚く巽に灯希がくすくすと笑う。そんな話、完全に忘れていた。巽は、じゃあ、と灯希に手を伸ばした。灯希がその手を掴む。
「家出じゃない、のか?」
「じゃないよ。いつもなら家を空ける時、カレンダーに書いていくのを今回書かなかったのは巽さんが寂しがってくれたらいいと思ったからだけど」
寂しかった? と掴んだ手にキスをしながら灯希がこちらを見つめ微笑む。
灯希は巽のスマホから全部見ていたはずだ。そんなこと聞かなくても巽がどれだけ灯希を必要としていたか分かっているはずなのだ。それでもあえて聞くということは、巽の口からそれを聞きたいのだろう。
「寂しかったに、決まってるだろ……あんな思い、二度としたくない」
灯希をまっすぐ見上げ、言葉にすると、巽の目の端から雫が零れ落ちた。
灯希がいないというだけで、帰ってこないかもしれないというだけで、あんなに自分が不安定になるとは思っていなかった。それだけ、巽の中の灯希の存在は大きくて、もう手放せないものになっているのだろう。
それが灯希の思惑通りだとしても、術中にはまったのだとしても、何も後悔はない。
「じゃあもう二度と、距離を置くなんて言わないで」
灯希が巽の頬を指先で拭い、優しく微笑む。巽はそれに頷いた。
「お前の言う通り、ゼロ距離でいい」
巽が同じように微笑むと、灯希は巽の手を離し、ぎゅっと巽の体を抱きしめた。
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