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「改めて、おめでとう、木南」  その日の終業後、木南と待ち合わせて来たのは小さな和風居酒屋だった。和食がいいなと言った巽に合わせ、木南が選んでくれた店だった。 「うん、ありがとう、麻岡」  木南がおすすめだという日本酒の入ったガラス製の猪口を軽く掲げてからそれに口をつける。飲みなれないから少し構えていたが、日本酒特有のぴりりとした刺激のあと、ほのかにフルーツの香りがして、最後は甘味が残る、そんな酒だった。確かに美味しい。 「美味いな、これ」 「だろ? 麻岡は洋酒派だと思ったけど、ここに来たらやっぱり日本酒だよな、と思って。それなら麻岡も飲めそうだろ?」 「うん、これなら」  巽が頷くと、そうだろ、と木南が徳利をこちらに向ける。巽は猪口を差し出してその酒を受けた。そのまま一口飲む。やっぱり美味しい。 「ここ、飯も美味いから食えよ」  木南との間にあるテーブルの上には既に木南のおすすめだというだし巻き卵や豚の角煮が並んでいた。巽が頷いてそれに箸を付ける。確かにどちらも美味しかった。 「酒に合うだろ?」  巽の表情から美味しいと思っていることが伝わったのだろう。木南が嬉しそうに猪口を傾ける。巽も同じように口に酒を含んだ。木南のいう通り、とてもよく合う。  いい店を教えてもらったなと思っていると、巽の猪口に再び酒が注がれ、また一口飲む。自分で飲むよりも少しピッチが早いせいか、巽の体温がふわりと上がっていることに自分でも気づいていた。 「今日はおれが奢るな、ここ。結婚祝い」 「ご祝儀なら貰ったけど」  日本酒は久しぶりなせいか既に気分がいい。今は思い切り木南を祝いたい気分になって、それとは別、と巽が微笑む。 「おれ、高梨さんのこと好きっていうか……少し特別に見てて。だから、木南にちゃんと幸せにしてくれたらいいなって、思ってるから、だから今日はおれが払う」  いいだろ、と木南を見やるとなんだか複雑な顔をしてから、そうか、と頷いた。 「麻岡が、あいつのこと、なんとなく気に入ってるのは知ってた。だからぎりぎりまで結婚のこと言えなかったってのもあるんだよ」 「そう、だったんだ……え、おれの気持ちって、あちこちバレたり……」  特に高梨にバレていたらなんだか恥ずかしい。木南と付き合っていたのなら罪悪感を抱かせていたかもしれないと思うと土下座したい気分になる。 「バレてないと思うよ。オレは……ほら、麻岡の親友、だろ?」  木南が少し考えてから伺うようにこちらを見やる。確かに大人になってからの付き合いだから、互いに『親友』なんて言葉を使ったことはなかったが、巽にとっては一番近しい友人で間違いはない。巽が、そうだね、と頷くと、木南が少し安心したように微笑む。 「そういうことだから、大丈夫だし、麻岡とはこれからも変わらない付き合いをしていきたいと思ってるよ、オレは」  木南が、これからもよろしく、と猪口を持ち上げる。巽はそれに頷いてから同じように猪口を持ち上げ、軽く乾杯してから酒を飲み下した。
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