桜舞う頃に、彼には言えない話を

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「ずっと思ってたんだけど、あっちに行くのずっと嫌そうだったよね」 「嫌とかじゃねぇけど…」  なんとも歯切れの悪い返事が返ってきた。きっと、私が彼のもとにやってきて、そこに満足していないことが彼にとっての不満だったのだろう。あるいは不安、か。 「仕事も…私にはやりたいことがあるから、それをやりきるまでは失業保険生活をさせてほしいって言ったのに、すごい不満そうだったよね」 「あぁ…それは、たぶん、八つ当たりだな」  この四日ほどで彼の頭も少し冷えたのか、至極冷静な態度でそう言った。 「八つ当たり?」 「仕事に不満ばっかり溜まってたから、たぶんそれで弥生が仕事してないのが不満だったんだと思う。今はもう、転職の話も進んでるから弥生の好きにしたらいいと思ってる」  そんなことを今更言われてどうしろというのだろうか。もう気持ちは先に進んでいる。 「髪、夏に青に染めようかなって話したら、その頃にはもう仕事始めてるだろ、とかそういう圧がずっとストレスだったんだよね。失業保険を貰う権利を私は持ってるし、それで生活に支障をきたすことはないのに」 「それは、弥生の体調のこともあったけど」 「私の体調?」  私は双極性障害を持っている。けれど、それも酷いのは冬場だけでそれ以外は基本的には普通に働ける。それでも、冬場になると無断欠勤を繰り返してしまうものだから、首を切られての失業保険生活だった。 「人に会わない生活になったら、もっと悪くなるんじゃないかって」 「そんなの、言ってくれないと分からなくない?それに、そういうのもあって刺激が欲しくてあっちに行ったんだよ、私。こっちの生活に大きな不満があったわけでもないけど、こっちに友達いないし行きつけのバーもないし」  そう、二年以上この土地で暮らして私には友達が一人もできなかった。私はこちらにやってきて、初めて自分がひどい人見知りなのだと自覚したのだった。職場でも愛想笑いはするものの、溶け込むことはついぞできなかった。 「それに……もうずっとレスなんだよ、私たち。キスすら一年してない。もう恋愛感情もなくなってたけど、家族ってこういうもんかなってやってきたけど、なんか一方的に怒られながら、なんで私謝ってるんだろうって思っちゃったんだよね」
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