桜舞う頃に、彼には言えない話を

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「別れることは変えないけど、やっぱり好きだった」  私は泣きながら、彼にそう言った。 「俺は愛してた。弥生がもう俺を男として見てないんだろうなと思っても、ずっと」  その言葉が胸に深く突き刺さった。私はこの先、自分の選択は間違ってなかったと言えるのだろうか。  それは、向こうで友人と飲んでいたときの話だった。彼には言えない、絶対に言わない話。 「実は今こんな状況でさ」  そう言って、彼に対する不満や彼のぶち切れメッセージを友人に見せながら話していたときのことだった。友人は男で、私が出会ってきた中で一番格好良いと思う男性でもあった。 「それならさ、弥生が良ければだけど、俺のとこに来れば?」  友人はこともなげにそう言ったのだった。私はその友人の性格も、知る限りは悪いところなど一つも知らなかった。この人の彼女になる人はさぞ幸せなんだろうな、と思ったものだった。 「えっ」  私はバーの一角で、大きな声を出してしまった。そこには友人の後輩という私は初めて会う人もいたのだけれど、友人は本当にさらっとそんなことを言ったのだった。 「えっ、ありなの?それ。私はありだけど…え、ありなの?」  壊れたおもちゃのように同じことを私は繰り返していた。 「まぁ、俺今彼女いないし、女遊びしないし、仕事以外予定もそんな入らないし。弥生さえよければ」  全然いいよ、と彼は言ったのだった。私はそんな夢のような話に本当に甘えさせてもらうことにしたのだった。好きになるまでに本当に時間は掛からなかった。  私は恋をしてしまった。だから、もう彼のところにはいられないのだと、彼には言えなかった。言わなかった。私が男遊びをしにあちらに行っていたのだと誤解されかねない。それは違うのだと信じてもらえるだけの言葉を私は持っていなかった。だから、友人のことはひた隠しにして、別れ話をつづけたのだった。  けれど、私は彼のこともまだ好きだったんだ、と思い知らされてしまった。それでも、新しい恋を私は選んだ。選んだのだ。好きになったら一直線の私は、ものの見事に友人に好きだと伝えてしまっていた。もう、後戻りはできない、そう自分に言い聞かせた。この決断を、後悔しないようにできるかは自分次第なのだろうと思った。あとは、相手次第でもあるけれど。
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