第六話 時計

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 疑問形で話しかけてきたキャラルに、あかりは誤魔化すように手を振った。言葉の意味は分からなかったが、なんとなく通じたような気がしていた。 ―― 少しトライしてみよう。  一本の枝を拾い、いったんキャラルと目を合わせてから太陽を指さす。それからあかりは、おもむろに地面に絵を描き始めた。ひと形を描き、少し離して小さな丸を足す。丸の周りには雑な放射線。絵を見つめていたキャラルが口をはさむ。 「これは私たちとお日様のこと?」  何か言いながら自分と太陽とを交互に指さすキャラルの身振りを見て、あかりは手ごたえを感じた。大きくうなずいてからひと形の足元に線を描き足し、日向に立って影を指す。 「影、のことね」  キャラルも立ち上がって、自分の影を指し示しながら単語を繰り返した。 ―― これは通じるかもしれない。  勇気を得たあかりは太陽と影の関係をキャラルに示し、それを測定する道具の必要性を熱っぽく伝えた。  何度目かの説明で気づきを得た貌になったキャラルが、自分の背嚢から金属でできた片手サイズの道具を取り出してあかりの前の日向に置いた。記号をふった目盛が刻まれたの円盤に立てて置いた三角板が乗っている。キャラルが置き場所を調整すると、板の影が真っ直ぐの線に形を変えて目盛の上に落ちた。 ―― 私の絵、ちゃんと伝わった! 「日時計(これ)のことでいいの?」  自信なさげにそう尋ねたキャラルだったが、目を輝かせて喝采を上げるあかりの様子を見て、自分の答えが正しかったことを知る。日時計の使わせてほしいと伝えているように見えるあかりの動作に笑顔で応え、拾い上げた日時計をその手の上に乗せてやった。
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