第四話 籠城

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―― 乱暴そうな巨人がキャラルを困らせてる。なにを言ってるのかはわからないけど、どうやら私のことも併せて非難してるらしい。  あかりも、その程度なら理解できるようになっていた。まだ二日目のこの世界、わからない状況はわからないと飲み込んで、まずはこの小集団の人間関係を把握することに全集中すると決めていたのだ。 ―― 私をこの世界に連れてきたのはキャラルという名の少女。白い髪に蒼い瞳の美人さん。耳の形や全体の雰囲気はラノベに出てきたエルフに酷似してる。ていうか、もうエルフでいいや。連れてきた方法や理由はイマイチ判然としないけど、どうやら私はハズレだったっぽい。 ―― チームのリーダーはシャバラさんっていう髭面のおじさん。顔はゴリラみたいにぶちゃむくれだけど、どうやらいいひとっぽい。少なくとも理由なしに虐めてきたりはしなさそう。こういう人が責任者なのは正直助かる。 ―― ただ、今のリーダーは別の人になっている。どうやら状況が緊迫して、日常とは別の危機状態になってるみたい。そんな非常事態を任されてるのはラセツという名の金髪のあんちゃん。鼻面が前に突き出し気味でちょっと犬っぽい容貌だけど、まあイケメン。指示出し的な発言以外には口開いてるとこ見たことない。まあ、まだ二日だけど。ばたばたしない感じは、たしかに非常事態向きかも。 ―― そしてたったいまキャラルちゃんを困らせてたのは熊みたいな大男、マグレ氏。この人、異常に大きい体格といい毛むくじゃらの体毛といい、完全に人間離れしてる。でもその大きさに比例する鷹揚さとかはぜんぜん感じられないんだよね。ひと言でいうと、乱暴ないじめっ子。ジャイアンを三倍くらい大きくして、真っ黒に塗りつぶして毛むくじゃらにした、みたいな。正直苦手。 ―― ほかにふたり異形なひとがいるけれど、まだ名前は覚えてない。一度も話しかけられてないし。片方はトカゲみたいな感じのひとで、もうひとりはシャバラさんと同族の、でもふた回りくらい小さくした感じのひと。たぶんこのふたりは下働きを担当してるんだね。  あかりはそんなふうに周りを認識していた。もっと驚き、狼狽えるのが普通な気もしていたが、知っていた世界との整合性があまりにも無さ過ぎて疑問を考察する機関のブレーカーが落ちてしまったのだろう、と自己分析している。  熊に虐められてしょんぼりしているキャラルの背中をぽんぽんと叩き、あかりはサムアップと笑顔を向けた。 ―― うまいことニカッと笑ってあげてられればいいんだけど。
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