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第五話 慰撫
洞窟で迎える二回目の夜、あかりはひとり寝付けなかった。
前夜は、召喚された直後から間をおかず、意味不明の山中行軍を強行させられて体中が疲れきっていた。その所為もあって、薄い床敷きを延べただけの土の上でも簡単に寝落ちすることができた。でも今日は違う。基本移動はなく、洞窟の出口に近い明るい場所でキャラルが手渡す携行食料みたいなものを数えて包み直したり、ラセツが短剣を研ぐのを眺めたりして過ごしていたから、昨日のような疲れはなかったのだ。その分、頭は冷静になっていた。
―― 私はここで、どうなっちゃうんだろう。
常夜灯として置かれている発光材の青白い光を見つめながら、あかりは己の現況を省みていた。隣では綿入れにくるまったキャラルが寝息を立てている。
―― 未来とか世界とか、そういう大きなことはまだ考えられない。それよりなにより、私はここで生きてていいのかな。どっからどう見ても、いままでとは違う世界。ひとも場所も言葉も、私の知ってた世界とはこれっぽっちも繋がってない。転校生でもここまで極端なのはないよね。
あかりは体を起こして岩壁に背中を預けた。中途半端に温んでいた身体が、接地面から伝わってくる冷気で覚醒する。
―― 気持ちいい。
視線を出口の方に向けた。
少し離れた洞窟中央には黒い塊が小山を上下させている。副団長の真暮。あかりは密かにクマ男さんと名付けていた。そのすぐ横には学生のふたりが身体を丸めている。
入り口近くの壁にもたれて眠っているのはネアンデルタールシスの斜原。あかりはリーダーと呼んでいる。
少し前に外に出て行ったのは現在のリーダー、螺節だろう。近隣の偵察に向かったようだ。
―― あのひと、顔もだけど、やってることも犬っぽいよね。それも愛玩系じゃなくて警察犬。シェパードとか。おっきくて素早くて強いやつ。
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