第五話 慰撫

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 あかりは周りを窺ってから、ポケットの中の白い筐体を取り出した。  スマートフォン。  腕時計(Gーショック)や保温ボトルにサングラス、その他の小道具は昨日キャラルに見せたけど、これだけは隠していた。  昨日森の中を歩きながら考えていたのだ。これは今の自分の生命線になるかもしれない。だから無駄遣いせず、機が熟すまでは見せないでおこう、と。  消音を確かめてから、起動ボタンを押す。真っ黒だった画面が明るくなって、大学構内の名物桜を背景にした「23:50」の時刻表示が現れた。急に明るくなった洞窟内に焦ったあかりは、スクリーンに手をかざして周囲を見回した。が、皆の様子はさっきのままだった。  ため息をついたあかりはスクリーン照度を最弱近くまで下げて、バッテリー残量と通信状況を確かめる。残量は80%、アンテナは一本も立ってない。 ―― ま、当然だよね。  あかりは、ここが異世界であることをあらためて思い知り、その身を震わせた。  深呼吸ひとつで気を取り直し、ログのチェックをはじめる。  LINEは調査チームグループの朝の集合場所連絡で終ったまま。むろん既読済み。SNS個人アカウントのタイムラインは昨日、八月十日の午後三時二十分のポストが最後だった。  夏期講習だるい。早く帰りたい委員会、絶賛発令中。  いつフォローしたかも思い出せない見知らぬ誰かが呟いたその一文が、妙に刺さってくる。 ―― 帰れるもんなら私だって還りたいよ。
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