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歩夢は嘘つき。そして、ちょっと抜けている。
だって、すぐバレるような嘘ばっかりつくんだもん。
こないだなんて、へとへとに疲れてうちに来たから、どうしたのかって聞いたら、コンビニで強盗を捕まえてきたなんて言うし。
びっくりしたけど、そんなニュースは流れてないし、職場の同僚に訊いても知らないって言うから問い詰めたら、なんと真っ赤な嘘だった。
ほんと、どうしていつも、こんなしょうもない嘘をつくんだろう?
「楽しいじゃん。真面目くさってるよりずっといいよ」
職場の同僚、すみれに愚痴ったら、そう言われた。
それはそうかも知れないけど。
「でもさあ、風花は彼のそんなところも好きなんでしょ?」
休憩室で弁当をつつきながら、すみれが冷やかすように上目遣いに私を見た。
「違うよ。今まで、そんな冗談言うような人じゃなかったもん」
言ってから、気が付いた。そういえば、歩夢が変なことを言い始めたのはつい最近だ。
確かコンビニ強盗の前は、スマホの懸賞で一億円が当たったって。
「最近、何かあったとか?」
心配そうにすみれが訊く。
「何かって?」
「例えば、仕事でストレス抱えてて、精神的に参ってるとか?」
歩夢は、精密機械の製造販売する会社に勤めている。確かに神経を使う仕事だろうけど、不満があるなんて聞いたことがない。
むしろ、毎日楽しそうだ。
でももしかしたら、私に言えない悩みとかがあるかも知れない。
黙りこんだ私の肩を、すみれが優しくぽんと叩いた。
「今度、ゆっくり話聞いてあげれば?」
「うん。そうだね。そうするよ」
ありがとう、と私は、力なく笑って頷いた。
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