四月

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「――――あ。ほらこれ、よく撮れてない?上手くね?」 「あー、はい。そっすね。めっちゃ()える」 「棒読み」 「ちゃんと見てます」 「SNS上げようかな」 「上げれば?」  つか、この時期みんなそんなの載せてると思うけど。 「やめた」 「なんで」 「もったいない」 「は?」 「いや考えたら、なんでお前が12時間場所取りしてくれて今やっと見てる景色を他人にシェアしなきゃならないんだよ」 「……アンタが言い出したんでしょーが」  ビールもチューハイも、つまみもあっという間に空になって、今は袋の底に残った屑ポテチを指でこそいで舐めてる状態。 「お前ひとりで食うなよ」 「いや、アンタがほとんど食ったんだろ。どうせ会社の花見でも食って来たくせに」 「……別に」  ふと、それまでのが嘘みたいに、つまらなそうな表情になる。 「上司にも女の子にも気ィ遣って。笑いたくもないのに笑って。うまくもないのに美味しいとか言って。全然」 「社会人て大変すね」 「お前もそうなるよ」 「俺はならないっすよ。知ってるでしょ」  ちらりと俺を見て 「……つまんないやつ」 ってレジャーシートにごろんと仰向けになる。  俺は四年生の今年も就職活動はしない。  農学部を卒業した後は実家の苺農家を一緒にやるのが決まってる。  なんなら嫁も決められてるかもしれない。 「それ、ちょーだい」 「どれすか」 「お前が持ってるポテチ」 「もう空っすよ」 「いーから」  ほぼ空の袋渡すと口開けて逆さにして叩く。 「もうないじゃん」 「だから言ったじゃないすか……」  周りはこんな時間でもまだ騒がしくて、ハイテンションな酔っ払いの声がする。  桜も、はらはら風に乗ってひっきりなしに散ってるけど全然まだ枝には残ってて今すぐ無くなるわけじゃないのに、なんだか二度と取り返しのつかない時間を過ごしてる気分になる。  来年の俺はどこで誰と桜見てるんだろうなんて柄にもなく考えてると 「(いく)」 いきなり名前呼ばれた。 「なんすか」  この人、あんまり俺を名前で呼ぶことないんだけど。 「これやる」 「……って、財布?」  一瞬誕プレでもくれんのかと思ったら違った。 「なんか買って来て」 「はぁ……何が食いたいんすか」 「なんでもいい。あと今週発売の音楽雑誌に特集載ってたから、それも。あと髭剃り買って来て」 「はい?」 「家のがもう切れ味悪くって。買おうと思ってたんだけど忘れてたの今思い出した」 「……それ花見と関係ないっすよね?」 「いーから行って来い」 「痛って」  寝っ転がったまま人のケツ蹴りつける。  本当に、名前と見かけに反して足癖悪いし人遣いも荒い。 「あと好きなの買っていいから」 「んじゃ、店ごと買って来る」 「俺のカード限度額じゃ無理だと思う」 「……知ってます」
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