四月

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「戻りましたー……って寝てんじゃん」  一応社会人としての自覚はあるらしく、盗まれないように鞄しっかり抱いて俺のリュックを枕に寝てた。  イラッと来たけど、すうすう寝てる顔は案外幼くて、ひっぱたくのはやめて隣に腰下ろした。  前も、こんな風に寝顔見てたことがある。  フェス行った帰りに運転変わってサービスエリア着いた時とか。  どっちかの家泊って、飲んで喋ってるうちにいつのまにか寝落ちしてた時とか。  女と付き合ったことがないわけじゃない。  なんなら、この人と知り合ってからも大学の友達の紹介で彼女が居た期間もあったし、やることやってた。  でも、この人と居る方が楽しかったし、その元カノの寝顔見ても別に、で。  眠る時はひとりか、誰か傍に居るなら薫さんが気楽でいいとすら思った。  この人も、去年職場の女に告られたけど断ったらしく。  俺も会社近くで待ち合わせた時に見かけたことあるから顔分かるけど、すごい美人だったのに何がダメだったのか聞いたら、いわく。 「美人ってだけで別に面白くない」 「……そういうもん?」 「美人の彼女出来るだけでシアワセならお前なんかとつるんでないよ」 「それなにげに両方ディスってね?」 「なんでもいいよ」 って散らかった俺の部屋のベッドに寝転がると、すぐに熟睡してた。  ……この人、俺が実家帰って遊ぶ相手居なくなったらどうすんだろ。  朝はきっちりカッコつけてたんだろう髪も乱れてぐしゃぐしゃになってるし、無防備もいいとこだ。 「……あ」  髪にも、社会人になって少し痩せた頬にも風に散る花びらが落ちてた。  これ朝までほっといたら桜に埋もれてんじゃねーかな……。  面白いから撮っとくか、ってスマホ向けた瞬間 「ぶぇっくし!」 盛大なくしゃみと共にいきなり目開けた。 「……あ……おかえり」 「……戻りました」 「買って来た?髭剃り」 「そこに袋と中に財布」 「サンキュ……ふぁ」  はっくしゅ、と今度のくしゃみはちょっと可愛げある。 「風邪引きますよ。も、帰りましょ」 「……なんか寒い」 「だぁから、冷えるから帰ろうって」  パーカー脱いで放り投げると首元に巻いて言う。 「サンキュ。これで朝まで寝れる」 「だから寝るな。今ならまだ電車あるから、薫さんちまで送るから」 「……タクシーでいいよ」 「どっちでもいいから起きろ」  なんとか立たせて、レジャーシート畳んで帰り支度していると 「見た?プレゼント」 ぼうっと桜見上げてたのが思い出したように呟く。 「見たけど、なにお花見チケットって」 「名前の通り、お前の誕生日には毎年俺が一緒に花見してやるチケット」 「……あざっす」 「まさかのツッコミなし?」 「どーせ何も用意してなかったから思いつきで作ったんしょ。つか、フツー誕生日って家族とか彼女と過ごしたり」  蹴り入れられた。非力だから痛くはないけど。 「暴力反対」 「要らなきゃ削除しとけ。バカ」 「わーった。分かったから。ちゃんと保存するから。有難くもらっときますから」  やっと片付けて立ち上がると、ぷいと俺から顔背けて桜に目をやる。 「行きましょ。先タクシー呼びます?」 「どっかでつかまんだろ。いーよ」 って先立って歩き出そうとして、木の根っこにつまづいてコケそうになったのを反射的にジャケットの襟首掴んで止めるとシャツまで掴んでしまったらしく 「ぐぇ」 「大丈夫すか」 「殺す気か」 注文うるさい酔っ払いだな……。 「じゃー、出口までおんぶしましょうか。それともお姫様抱っこでもしますか」 「バカにすんな」  で、またつまづく。  今度は肩掴んで止めた。 「……危ないからおんぶで行きましょーか」  
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