四月

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 俺のリュック背負って自分の鞄持った薫さんを背中に、公園の出口までの舗装路を歩く。  はらはらと相変わらず頭上からは桜の雨が降る。 「これ眺めいいわ。さいこー」 「はいはい、良かったすね」 「来年も頼む」  答えられずにいると 「チケットやったろ」 不満げな声が降って来る。 「俺の自由意思じゃないんすか」 「嫌なのかよ。俺と花見」 「……行きてーっすけど」  ――――どうせ酔っ払いだし、今話しても覚えてないだろうと思った。 「……俺さー、家が農家ってのは、ちっちゃい頃から嫌じゃなかったんすよ」  ちょっと間があって 「……前にも聞いたけど?」 「休みもないし体力勝負だし大変だけど、うちのが美味しいってわざわざ毎年買いに来てくれる人が居たり、やり甲斐はあるから。だから、農家やるのは別にいいんすけど。でも、薫さんと今までみたいにライブ行けなくなったり遊べなくなるのは、俺も寂しいんすよ。だけど、やっぱ時間とれるかは」 パン、と頭叩かれた。 「てっ」 「真面目か」  はぁ、と溜息つくのが聞こえた。 「んなの分かってるよ。だから、あれやっただろ」 「……だから、自由に休みもらえるかなんてまだ分かんないって」  もう一回、頭叩かれた。 「……っ、あのなあ、いくらアンタでも」 「黙って聞け。いーか、俺が約束したんだから、お前が俺と花見したいと思ったら、お前がどこに居ても俺は叶えてやる義務があんだよ。どこに居たとしても」 「……って……いや、でもこの時期に社畜が休みとかもっと無理じゃね?」 「そん時は親戚コロしてでも何とかするよ」 「……ゴメン。かっけーんだか最低なんだか分かんねえ」 「カッコいいことにしとけ」 「……てゆーかさ」 「なんだよ」 「アンタ、最初会った時は正直何このコミュ強って思ったんだけど。薫さん本当はあんまり自分から話しかけ行くタイプじゃないすよね。なんで俺は」 「勘」 「本当はその前に俺のスマホとか、鞄にツアーの缶バ付けてんのとか見て、話したかったんじゃねーの?」 「自意識過剰」 「……スンマセン。落としていっすか」  次の瞬間、ぎゅっと首抱きつかれてさっきの仕返しかと思うくらい締められて、腕叩いた。 「かおっさん、それマジ死ぬから。ギブ。勘弁して」 「……フン」  力緩めてはくれたけど、腕はしっかりしがみついたままで。   なぜか、どきっとした。  胸が熱くて、このまま桜の雨の下どこまでも歩いて、誰も居ないところに攫ってしまいたいような。  降る花びらで覆い隠してしまいたいような。 「……薫さん、もうすぐ出口だけど、下ります?」  返事はなく 「下りないなら、どっか連れてっちまいますよ」 「……へえ」 聞こえた声は、どこか普段と違う響きで 「どっかって、どこ?」 低く、甘く鼓膜くすぐってくる。 「……知らないけど、どっか。そしたら、明日会社行かなくて済むっしょ」  背中で薫さんは笑った。 「いいね。それ。じゃあ、行き先任せるからヨロシク」  ――――結果的には、ちょうど公園出たところでタクシーつかまえられて、乗ったら薫さんが普通に自分ちの住所告げたのでそうはならなかったんだけど。  もし、あの時間がもう少し続いてたなら俺はどうしていただろうと、しばらくの間思い出しては考えてた。
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