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三月
去年花見をした公園は、今年は三月下旬には満開を迎えていた。
暗くなる前から盛り上がっている花見客の中を歩いて行くと、去年と同じ場所にシートが敷いてあって薫さんが寝ていた。
靴脱いで上がって、しゃがんで肩を叩くと薄く目を開ける。
「お疲れっす。てか、風邪引きますよ」
「……今年は対策してカイロ貼ってきたから大丈夫なんだな。これが」
笑って、薫さんは体を起こす。
今日は平日だけど、私服だった。
「……我儘言って、サーセン」
俺が頭下げると苦笑いする。
「ま、しょうがない。『誕生日』は口で言っただけだったし」
薫さんに電話したのは先週。
話すのは、卒業祝いに飲みに連れてってもらって以来だった。
「あ、薫さん?この前は飲みあざっした。……うん。もう実家なんすけど、ちょっとお願いあって。あのチケットって俺の誕生日じゃなくても使える?」
「――――電話でも話したけど、家の仕事の他に俺、若手生産者の会に入れてもらえることになってさ。しばらくは夜も休日も勉強会とか情報交換行くことになりそうで」
「いいんじゃない。大変だろうけど横の繋がりは貴重だろうし、良かったな」
「良かったんすけど、俺の誕生日も、代表やってる人の大学の先輩招いての勉強会兼飲み会になっちまって。どうしようかと思ってたら、ちょうど桜も今年は早かったから、前倒しでスマセン」
「いいよ。今日は、家の法事でこっち来てたんだろ?着替えたの?」
「さすがに黒で花見はないから、途中で着替えた。ってか、薫さんもこの年度末によく休み取れたっすね」
「問題ない。親族ひとりお亡くなりだけど」
「……マジで?」
「俺まだ一人目だから。先輩で片手じゃ足りないくらいお亡くなりの人もいるらしーよ」
「社畜怖ぇ……」
「んじゃ、とりあえず乾杯しよ。お前車なんだろ」
薫さんは保冷バッグから缶ビールとペットボトルのお茶を取り出す。
「スイマセン」
「去年も俺待ってる間お茶で花見してたんだよな。ウケる」
って何が面白いんだか、笑って俺のお茶に自分の缶当てる。
「早いけど、誕おめ」
「……っす」
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