三月

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 その日の薫さんは妙に上機嫌で、最近気に入りの曲や映画の話なんかしていたけど、すぐに眠そうになってごろりと横になった。 「……大丈夫すか?」 「へーき。起きてる」  言うけど完全に寝るモードだ。 「……ゴメン。やっぱ年度末で疲れてんだろ?送るから」 「いい」 「でも……」 「いいから、お前のタイムリミットなったら起こして」  そう言って、傍らで目閉じる。  去年みたいに風に散る花びらが顔に落ちて。  取ってやろうとして指が頬に触れても何も言わなかった。  隣に自分も寝転がって顔見てると、ふいにぱちりと目開ける。  酒でふんわり上気した顔は、なんか蕩けそうな目してた。 「……薫さん」 「なんだよ」  途端に顔しかめて嫌そうな表情する。 「俺……」  言いかけた瞬間、顔ごと片手で押さえられた。 「……っぶ」 「悪い。花びらついてた」 「……は?……いや、絶対嘘だろ」 「嘘じゃないし」 「じゃ見せてみろよ」 「もう飛んでった」 「……アンタ絶対分かってやってるだろ」 「なにが」 「……もういい。帰る」  俺が体起こすと 「もう時間?」 「まだ平気だけど、もういい」 立とうとすると、ぎゅっと上着の裾掴んでくる。 「……なにそれ」  無言。  俺は溜息ついて言った。 「……マジやめて欲しいんすけど。そーゆーの。……今日だって、あちこち無理あったの何で押し通したって、この前アンタに言いたかったこと言えなかったからだよ」  そういう空気になるとうまく交わして。  そのくせ手の届くところから逃げない。 「俺もう辛いんで。これ以上になる気ないなら」  その時、服掴んでた手が離れて、俺の手握った。  細い指が、どこか必死に握りしめてくる。 「っ……だから、そういうのもういいから」  振り払おうとすると、唇動かして何か呟く。 「……なに?」  聞き取れなくて顔近づけたら、耳まで真っ赤にして泣きそうな眼して言った。 「……だって、これ以上にならなかったら、お前ずっと俺と会ってくれるじゃん」    
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