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日曜日の午後、僕が、アパートの部屋でくつろいでいると、不意に、ドアがノックされた。
ドアを開けると、左隣に住んでいる男性が、紙袋を手に立っていた。
「あの、今日、引っ越す事になったんで、あいさつに伺いました」
「ああ、そうなんですか、わざわざどうも」
「これ、今までお世話になったお礼です」
と言って、紙袋を僕に渡した。
「いえいえ、こちらこそ。すいません、ご丁寧に」
数時間後、再び、ドアがノックされた。
ドアを開けると、さっき引っ越して行った、左隣に住んでいた男性が立っていた。
「どうしたんですか ?」
「あの、今度、右隣に引っ越してきた者です。あいさつに伺いました」
「右隣に !?」
「はい」
「左隣から右隣に !?」
「はい・・・いやー、良かったです。お隣さんが、あなたみたいな優しそうな方で・・・不安だったんですよ、変な人だったらどうしようって」
「いや、さっきまでもずっと、お隣さんでしたけど・・・」
「なんだか、ずっと以前からの知り合いみたいな気がします」
「その通りですけど・・・さっきまで、左隣に住んでらっしゃいましたから」
「ああ、やっぱり !! ・・・いやー、どこかでお見かけした事ある顔だなあとは思ってたんですけど・・・世の中には、自分と似た人が三人いるって言うじゃないですか。ひょっとしたら、ただのそっくりさんなのかなあと思って・・・」
「そんなわけないでしょ」
「あのー、申し訳ないんですけど、さっき渡した紙袋、持って来ていただけます ?」
「えっ ?」
僕は、言われたとおり、紙袋を持って来て渡した。
それを受け取った男性は、
「あの、これ、隣に引っ越してきたので、お近づきの印に・・・」
と言って、また、紙袋を僕に渡してきた。
「なんなんですか ! 面倒臭いなあ」
「送料無料です」
「そりゃそうでしょ。手渡しただけで、業者を介してないんですから」
「で、一つお願いがあるんですけど・・・」
「なんですか ?」
「あなたに引っ越していただきたいんですけど」
「えっ !? 引っ越す ? ・・・僕が ?」
「はい」
「なんでですか ?」
「引っ越しで反復横跳びしたいんですよ」
「引っ越しで反復横跳び !? ・・・」
「ええ・・・、あなたが引っ越していただければ、左隣も、まだ空いてるんで、引っ越しで反復横跳びができるじゃないですか」
「できるじゃないですかって言われても・・・」
「実は、僕、高校の体育教師やってまして」
「はあ・・・」
「先生は、引っ越しでも反復横跳びやってるんだぞ ! っていうのを、生徒に見せ付けたいんですよ」
「・・・」
「先生って凄いな。引っ越しでも反復横跳びするなんて、体育教師の鑑だなってなるじゃないですか」
「なりますかね ?」
「じゃないと、生徒に示しが付かないですし・・・」
「・・・」
「だから、あなたが引っ越していただければ、思う存分、反復横跳びできるんですけど・・・引っ越していただけないですかね」
「嫌に決まってるでしょ !!」
バタン !!
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