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「あー疲れた !」
出張一日目の仕事を終えた僕は、予約しておいたホテルの部屋に入ると、ベットに身を投げ出した。
そのまま、しばらく休んでいると、不意に、ドアがノックされた。
「なんだよ、もう・・・」
ドアを開けると、見知らぬおじさんが、紙袋を手に立っていた。
「はじめまして。私、隣に引っ越してきた者で、あいさつに伺いました」
「引っ越し ? ・・・」
「最近の物件は凄いですね ! 色んな物が備え付けてあって・・・テレビにエアコンに冷蔵庫にベットまで・・・」
「そりゃまあ、ホテルなんで・・・それより、引っ越しってどういう事ですか ?」
「どういう事といいますと・・・」
「ここホテルなんで、引っ越してきたって言われても・・・ああ、そうか。たまにいますよね。ホテルに住んでるお金持ちの人」
「いえ、一泊だけですけど」
「一泊だけ !」
「はい」
「仕事で泊まられてるんですか ?」
「はい」
「じゃあ、ただの出張じゃないですか」
「えっ !? こういうのって、引っ越しとは呼ばないんですか ?」
「呼ばないですよ、もちろん」
「えー !!! ・・・じゃあ、ひょっとして、住民票を変更する必要もなかったんですかね ?」
「ないですよ・・・今まで、いちいち出張のたびに変更してたんですか ?」
「ええ・・・海外に行く時は、一応、国籍も変えてましたし」
「えー !! 国籍も !」
「はい。郷に入れば郷に従えって言うじゃないですか」
「そういう意味じゃないんですけど」
「そうだったのか・・・申し訳ない事したな・・・」
「何がですか ?」
「いや、盛大な送別会、開いてもらったんですよね・・・友達とか近所の人に・・・」
「一泊の出張で !?」
「ええ・・・どの面下げて会えばいいんだか・・・」
「あの・・・僕、仕事で疲れてるんで・・・もう、いいですか」
「ああ、すいません、お疲れの所・・・じゃあ、この辺で・・・」
と、帰りかけたおじさんは、何かを思い出して立ち止まり、戻ってきた。
「大事なもの渡すの忘れてました」
「なんですか ?」
「これ」
おじさんは、僕に、一枚のハガキを渡した。
「明日、私の送別会をやるんで、よかったら出席してください」
「するわけないでしょ !! ・・・家に帰るだけでしょ !!」
バタン !!
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