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道の途中、白い小さな蝶がエミリーの前に踊りでます。エミリーは、ひらひらと舞う蝶を追いかけて、せまい坂道をのぼっていきます。
道幅がせまくなるたび、蝶が一匹二匹と増えていくようでした。
もう通るのもやっとな山道で、たくさんの蝶がエミリーを誘っています。
エミリーが蝶の群れに飛び込もうとした時、
「ばか」
と言う声と共に、腕をひっぱられました。
声の主は小さな男の子でした。男の子は、エミリーの腕をとったままぐんぐん歩きます。
「ああいうのは、入ったら帰れなくなるんだ」
そう言う男の子のおしりには、黄金色のしっぽが生えていて、フリフリと歩くたびにエミリーの鼻先をくすぐりました。
エミリーは、日本人にはしっぽがあったのかと思いました。
くしゅんとくしゃみをすると、男の子は止まって、
「わるいわるい」
と笑いました。
「おれ、まだしっぽをうまく隠せないんだ。おまえは、上手に隠してるな。でも、頭の毛の色と目玉がキツネのまんまだ。そのへんはおれのが上手いな」
と黒い頭をポンポンと叩いてみせました。
何て言ってるの? とエミリーは聞き返しましたが、男の子にはわからないようでした。
「おまえこの辺の奴じゃないな? となりの山から来たのか? 花見の季節だもんな」
何? とまた聞いても、男の子の言ってることはわかりませんし、男の子にも通じません。
「なんだ、人間語が出来ないのか? でも、今日の昼間は人間の姿でいなきゃだめだぜ」
エミリーは不安になって目に涙をためました。悲しかった気持ちが戻ってきて、どんどん寂しくなってきました。
パパに会いたい。 そうつぶやいていました。
エミリーの様子に、男の子は慌てました。
「泣くなよ。はぐれたのか? 俺が花見の場所まで案内するから心配するな」
そう言って男の子は胸をたたきました。
若緑の山道を、ふたり手を繋いで歩きます。エミリーは暖かい手に心がポカポカしてきました。
エミリーは、少し立ち止まって、ポシェットからドロップをふたつ取り出すと、ひとつを自分の口に、もう一つを男の子の口に入れました。
「ひゃーあまい。うまいもんだなあ」
男の子はほっぺをおさえて笑いました。
エミリーもほっぺをおさえて笑いました。
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