01. 亡き母の教え

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そしてあの決意の日から二年が経った。 私は17歳、王立学園二年の終わりを迎えており、もうすぐ最終学年だ。 婚約者であるギルバート様は18歳、まもなく卒業して、王宮勤めの予定となっている。 つまり、私たちの結婚まで残すところ後一年というわけだ。 この二年、ギルバート様の婚約者として日々を王立学園で過ごしてきたが、それはそれは大変な日々だった。 子爵令嬢が公爵家に嫁ぐというのは異例の玉の輿であり、令嬢達の羨望の(まと)だ。 しかもギルバート様はその身分と見目の良さから社交界の人気者。 それゆえ、令嬢からの嫉妬が凄まじい。 特に私より身分の高い令嬢はこの婚約を妬んでおり、目の敵にされた。 私の存在自体が不愉快なようだ。 嫌味を言われたり、細々と嫌がらせを受けたり、まだ結婚したわけではないのに、婚約だけでこの事態だった。  ……お母様の教えが身に沁みるわ。きっと結婚すれば今以上に苦労の連続のはず。身分違いの結婚は不幸になるだけね。絶対に回避しなければ……! ますます私は亡き母の教えに深く共感し、ギルバート様の心を他に向けるべく奮闘した。 具体的には、ギルバート様と一緒にいる時は口数を少なくして、無口な女を演じた。 加えて、恋人らしい触れ合いも何かと理由をつけてやんわりと避け続けた。 なぜならギルバート様が愛嬌のある女性が好みであり、尚且つ恋人としての触れ合いを望んでいると知っていたからだ。 もともと私の容姿だけで婚約を決めた人だ。 外見を最も重視しているのは自明のこと。 だが、全く中身を気にしないということはないと思う。 母の時は否応なくすぐに結婚だったものの、幸いにも私には婚約という結婚までの猶予期間がある。 だからこそ、この期間で「この女は容姿だけで中身がなくつまらない女だ」と思わせたかった。 結果から言うと、この策は狙い通り上手くいった。 次第に私と過ごす時間が減っていき、ギルバート様は自分に群がる他の令嬢との時間が増えていった。 その中でも私をなにかと敵視してくる侯爵令嬢のカトリーヌ様と親密な様子だった。 カトリーヌ様は笑顔が素敵な明るい性格の令嬢だ。 無口な私と違って会話が弾む上に、男女の触れ合いも許してもらえるとなれば、ギルバート様の心が傾いていくのも自然な流れだった。 そうして、ようやく、ようやくだ。 「シェイラ、君との婚約は破棄させてもらう。容姿だけしか取り柄のない君は、次期公爵である俺には相応しくない」 今、私は念願の婚約破棄をギルバート様から告げられている。
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