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そんな私とは対照的に、王太子殿下はというと、興味深いオモチャを見つけたような目で私を見てくる。
……これ以上王太子殿下とは関わり合いたくないわ。少々無作法かもしれないけれど、婚約破棄による傷心を理由にこの場を辞させてもらうのが得策ね。
「……あの、王太子殿下。大変恐縮ながら、この場を失礼させて頂く許可を頂けますでしょうか? お恥ずかしいのですが、先程の婚約破棄による衝撃からまだ立ち直れておらず……」
私は悄然としてうつむき、弱々しく述べる。
傷心だから今は一人になりたいという気持ちを匂わせつつ、同情を誘うような悲しげな顔を作った。
「そうだったね。シェイラ嬢は今しがた婚約破棄をされたばかりだったよね」
「はい……本当に突然のことでとても驚きました……。とても悲しく、残念に思っていて、正直なところ未だ心の整理ができておりません……。こんなお恥ずかしい姿を王太子殿下に晒したくもございませんので、失礼させて頂きたく存じます」
さすがの王太子殿下も空気を読んで先程までの笑顔を引っ込め、労わるような表情になった。
ここぞとばかりに私は声を震わせ傷心ぶりをアピールし、退場許可を狙う。
そしてそれは功を奏した。
「もちろん許可するよ。僕もそろそろ政務に向かおうと思っていたから。今日はここまでだね」
最後の方に不穏な言葉が混じっていた気がしなくもないが、とりあえず許可は得られた。
これ幸いと、さっそく私は王太子殿下に丁寧に会釈して校舎の方へ向かおうとする。
王太子殿下との邂逅は予期せぬ出来事だったし、王太子殿下の言動はいちいち不可解だったけれど、もう私には関係ない。
気にする必要もない。
だって貴族の頂点である高貴な身分の王族と顔を合わせる機会なんてこれっきりだから。
……今日王太子殿下が学園にいたのはきっとたまたまだろうし、すでに卒業している殿下とまた出くわす可能性はないに決まってるもの。
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