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ようやく厄介な状況から脱せられるとあって、ほっと胸を撫で下ろしつつ、私は王太子殿下に背を向けて一歩を踏み出す。
その時だった。
「ああ、そうそう。もしかしたらシェイラ嬢は知らないかもしれないけど、王立学園は王族が管理者を務めていて、今は僕が担当してるんだ。定期的に学園には足を運んでいるから、次に来校した時には君を訪ねるよ」
「えっ……」
婚約破棄を告げられた時に現れた時同様、軽い口調で背後から声を掛けられた。
その内容が思ってもみないもので、私は思わず振り返り、小さく声を漏らす。
コバルトブルーの瞳と目が合い、私の姿を認めると、その目は楽しそうに細められた。
「君と話すのはとても面白かったからね。それじゃあ、また今度。近いうちに」
にこにこと人好きのする笑みを浮かべた王太子殿下は、最後にそう言い残すと、ヒラヒラと軽く手を振ってその場を颯爽と去って行った。
取り残された私は呆気に取られて足が止まる。
……え? 今、王太子殿下、また今度って言わなかった? それはつまり、次があるってこと……?
学園に王族の管理者がいるという事実も初耳だ。
入学して二年が経つが、今まで学園内でその姿を目にしたことはなかった。
……私と話すのが面白いって何? どういうことかしら?
交わした会話を思い返してみても、まるで心当たりなどない。
なぜかは分からないが、どうやら私は王太子殿下に興味を持たれてしまったようだ。
苦手意識から関わり合いたくないと思っていたのに。
本当に理解不能だ。
せっかく念願の婚約破棄を達成したというのに、その喜びはどこへやら。
それを帳消しにして余りある困惑に、私は頭を抱える。
この時の私は知る由もなかったが、実はこれはまだまだ序章に過ぎない。
平穏とは程遠い受難の日々が新たに私を待ち受けているのであった。
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