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『花壇が美しい他の庭と違ってここは特になにも見所がないけれど、それが逆にいいのよね。森の中にひっそりある庭だから静かだし、切り株しかない飾り気のない感じが安らぐわ』
いつも通り、今日も私は思ったことをつらつらとセイゲル語で口にする。
誰も聞いていないし、聞かれたとしても言葉を理解できない。
だから安心して話すことができる。
ギルバート様から愛想を尽かされるために、これまで口数の少ない無口な令嬢を演じてきたから、その反動で一人で過ごすこの場では口が滑らかになりがちだった。
『その意見には同感だね』
その時ふいに私の耳に自分のものではないセイゲル語が耳に飛び込んできた。
まるで私の言葉に返答するような内容だ。
誰もいないはずなのに、しかもセイゲル語だから誰も分からないはずなのにおかしいと、私は周囲をキョロキョロと見回す。
でもやはりこの場には私しかおらず、辺りに他の人の姿は見当たらない。
『……空耳よね? きっと木々のさざめきがたまたまそう聞こえただけだわ』
なんとなくホッとして息を吐く。
だが、その反応を待ち構えていたかのように、次の瞬間、目の前にいきなり人の姿が現れる。
「………!!」
びっくりして息が止まりそうになった。
なんと私が腰掛けていた切り株の近くの木の上から人が飛び降りてきたのだ。
「やあ、久しぶり。近いうちにと言っておきながら少し間があいてしまったね」
ありえない登場の仕方なのに、目の前の人物は何事もなかったような態度で、人当たりの良い笑顔を私に向けてくる。
この現れ方にも驚きだが、それと同じくらい私は予期せぬ人物が目の前にいることに驚いていた。
なぜなら……
「お、王太子殿下……!?」
そう、またしても王太子殿下とこの場で出会してしまったからだ。
「な、なんでこちらに……?」
「この前言ったよね? 次に来校した時には君を訪ねるって」
……うそ、本気だったの?
確かにあの時は「また今度」と言われて困惑したが、それからしばらく経つものの何事もなかったから冗談だと思い込んでいた。
あの日の出来事はすっかり意識の外に追いやっていたくらいだ。
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