04. 退屈な日常の終わり(Sideフェリクス)

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だが、気位の高い貴族達が集まるとあって、学園長が手に負えない揉め事や厄介ごとがそれなりに起こる。 そこで定期的に学園長や生徒会と会議を行って対処や予防に努めているのだ。 その日もリオネルと共に学園に赴き、学園長と面会して現状の聴き取りを行っていた。 そしてそれを終えると、僕は少し息抜きをしようと思い立ち、学園内にあるお気に入りスポットへ一人で足を運んだ。 森の中にひっそりある目立たない庭は、めったに人が来ないため、在学時から僕がよく利用していた場所だ。 王太子である僕は、常に人から注目される立場のため、普段から一挙手一投足に気を配る生活をしている。 この国の次期国王として周囲から認められるよう、物心ついた頃から無闇に敵を作らないように笑顔を作り、隙のない言動を心掛け、公平公正、折目正しく過ごしてきた。 その甲斐あって、僕は貴族達からは王太子として一目置かるようになり、加えて幸いにも恵まれた僕の容姿や能力が知れ渡ると、「無敵王子」と囁かれるようにまでなった。 こうした評価を背負うことになると、ますます気が抜けなくなるもので、今ではもう条件反射のように皆が望む王太子の姿を演じられる。 特段楽しくもないのに笑う、退屈な日々だ。 たまに本当の自分が分からなくなる。 そんな気持ちに苛まれた僕が、学園在学時に見つけたのが、あの息抜きの場所だった。 そしてそこで巡り会ったのだ、彼女と。 学園長との面会の後で久しぶりに訪れた庭には、予想外に先客がいた。 チラリと人の姿が目に入った時、言い表しようのない不快感とともに僕は心底ガッカリした。 誰でも利用できる場所であることは重々理解しているため、それが理不尽な感情だとは分かっている。 ただ神聖な場所を穢されたような気がしたのだ。 先客である令嬢は、本を読んでいるらしくこちらには気付いていない。 気付かれると何かと面倒なので、とにかく僕はさっさとその場を去ることにした。 だが、その時ふと聞こえてきたのだ。 下手くそなセイゲル語が。 お世辞にも上手とは言えないたどたどしい言葉は、どうやらその令嬢の口から紡がれているようだった。  ……へぇ、貴族令嬢がセイゲル語を学んでいるなんて珍しい。
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