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それにしても彼女は今しがた婚約破棄をされたばかりなのに、あまり堪えていなさそうであった。
悲しみに顔を曇らせてはいるが、どことなく表情をワザと作っているように見える。
……もしかして婚約破棄は彼女の狙い通りだったのかも? ふふ、本当面白い。興味が尽きないよ。
その日は次の予定の関係でゆっくり話すことはできなかったが、僕は彼女との接触をこれで最後にするつもりは毛頭なかった。
だから卒業パーティーが終わり、彼女の身辺も少し落ち着いたであろう今日、再度あの場所へ会いに行ったのだ。
◇◇◇
「それで今日はアイゼヘルム子爵令嬢とゆっくり話すことはできたんですか?」
ふいにリオネルから問いかけられ、彼女との出会いを回想していた僕は意識を引き戻される。
事務的な確認のような口調で尋ねてくるリオネルに僕は小さく笑いながら答えた。
「話すことはできたんだけど、どうも彼女に嫌われてるみたいなんだよね。距離を置こうとされてるみたい」
「嫌う? フェリクス様をですか? そんな女性がいるのですね。驚きです」
「本当面白いんだって、彼女。会うたびに興味を惹かれる貴重な女性だと思うよ」
思い出すだけで楽しくなってくる。
あの頑なに丁寧な態度を崩させるにはどうしたらいいだろうか。
もっと色んな表情の彼女を見てみたい。
「おそらくもうあの場所には来ないだろうね。僕とは出くわしたくないみたいだし」
「ではもうお会いになることはないのですね」
「まさか! せっかく彼女に婚約者がいなくなって誰の目も気にしなくて良くなったんだから、僕が会いに行けばいいだけさ」
「ということは……また私に仕事を押し付けて消えるつもりですね?」
「人聞きが悪いなぁ。事後処理を任せてるだけじゃないか。さあて、学園での次の会議はいつかな?」
リオネルが呆れたように軽くため息を吐くのを横目で見つつ、僕は窓の外の景色を眺めた。
部屋の窓からは立ち並ぶ校舎が見える。
この校舎のどこかで授業を受けているだろう彼女に思いを馳せる。
次に会った時はどんな顔を見せてくれるだろうか。
今から楽しみで仕方ない。
変わり映えのしない退屈な日常はこうして終わりを迎えたのだった。
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