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……あの庭にさえ行かなければもう二度と王太子殿下と接触するようなことはないと思っていたのに……。確かにあの時「またね」とは言われたけれど、まさかこんな形になるなんて。なんで王太子殿下は私に構ってくるのかしら……?
王太子殿下の狙いが全く分からない。
ますます苦手になりそうだと内心思いながら、私は王太子殿下の目の前まで辿り着いた。
「……お待たせいたしました。どのようなご用件でしょうか?」
「用件らしい用件は特にないんだけど、少し話せないかなと思って。一緒に昼食でもどう?」
王太子殿下はごく当たり前に軽い感じで食事に誘ってくる。
こんなに人目があるところで、こんなふうに王族が一貴族令嬢を誘ってしまって大丈夫なのだろうか。
にわかに心配になるが、これ以上ここで王太子殿下と言葉を交わすところを衆目に晒されるのは耐え難かった。
それなら昼食でもなんでもいいから、ここから一刻も早く立ち去りたい。
「…………分かりました」
「本当? それは嬉しいな。じゃあちょうどいい場所があるからそちらへ移動しようか」
「はい」
王太子殿下が入り口から廊下へ歩き出し、私もその後ろに続く。
廊下でもすれ違う人々から好奇の視線を投げかけられ、走り出したい気分に駆られた。
つい速足になってしまい、行き先も知らないのに思わず王太子殿下の腕を引っ張りたくなった。
到着した場所は初めて入る部屋だった。
王太子殿下によると王立学園内にある王族専用の部屋だという。
王族が学園を訪れた時に自由に使って良いことになっているそうだ。
「昼食は準備してあるから中へどうぞ」
そう言って微笑みながら、王太子殿下自らが扉を開けて、先に私を室内へ通してくれる。
流れるような自然なエスコートだ。
そのそつがない仕草に王太子殿下の優秀さを感じる。
「お待ちしておりました、フェリクス様。そしてようこそアイゼヘルム子爵令嬢」
部屋の中に入ると、そこには一人の男性がいて、私の姿を目に留めるなり、私にまで恭しく声を掛けてくれた。
王太子殿下の側近で伯爵家嫡男のリオネル様というらしい。
夜会などでもお会いしたことがなく、私は面識がなかったので改めて彼と挨拶を交わす。
それにしても部屋の中へ目を向けると、テーブルの上にはすでに食事が並べられていて、準備がばっちりな状態だ。
その様子から察するに、王太子殿下は最初から私を昼食を誘うつもりだったように見受けられる。
……それなら教室に来ずとも、せめて手紙で誘うなどもう少し目立たない形にして欲しかったわ。
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