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子爵家に嫁入りした元平民の母は、この祖母にそれはそれは厳しく教育され、さらには後継となる男児を産めとプレッシャーをかけられる日々を過ごした。
ただ、態度や言葉が多少キツイ部分はあるものの、祖母が完全な悪者というわけではない。
祖母は祖母で姑として、当主代行として、矜持を待ってその責務を果たしたに過ぎないのだ。
「身分違いの家に嫁ぐと常識が違いすぎて覚えることばかり。本当に本当に大変なの。シェイラにはそんな苦労をして欲しくないわ。身の丈に合った生活が一番よ」
経験に裏付けされた実感のこもった母の言葉の数々は、私の心の奥深くに浸透していく。
幼い頃から幾度となく言い聞かせられていた上に、実際に母の苦労を間近で見ていれば、それも当然のことだった。
だから、母が亡くなった年に行われた15歳のデビュタントの後に祖母と父から告げられた台詞を耳にした時には絶句してしまった。
◇◇◇
「お聞きなさい。あのバッケルン公爵家からシェイラに婚約打診が来たわ。ご子息のギルバート様がシェイラを見初めてくださったのですって。なんて光栄なことかしら! 我がアイゼヘルム子爵家が公爵家と縁続きになれるなんて!」
「母上の申される通りだ。あちらにはすでに快諾の返答をしてある。すぐにでも正式に婚約が整うだろう」
ここエーデワルド王国では、貴族の子女は15歳になると正式に社交界デビューとなり、お披露目となる舞踏会デビュタントが開催される。
それがつい先日の出来事だ。
私も例外なく出席した。
あまり華々しい場所は好きではないが、こればっかりは貴族の決まりみたいなものなので拒否できない。
この日を迎える少し前に母を亡くしたばかりだったため、とてもじゃないが舞踏会を楽しむ気分ではなく、ただ義務的に参加したのだ。
話し掛けてくる人々を愛想笑いであしらい、なんだかんだと理由を付けてダンスを避け、ほとんど壁の花に徹していた。
それなのにこんな婚約話が舞い込んでくるなんて想定外も想定外。
しかも相手は公爵子息だという。
身分違いも甚だしい。
王族を頂点とし、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵の順番で爵位は並んでおり、身分もそれに準じて高くなる。
公爵、侯爵は上級貴族と位置付けられ、中でも公爵家は王家の血が混じる由緒正しき家柄であり、王国内に四家しかない高貴な存在だ。
普通は下級貴族である子爵家とは縁を結ばない。
あり得ない婚姻打診だった。
……確かにギルバート様とは少しだけ言葉を交わした記憶はあるけれど、挨拶程度だったのに。見初められる……? なんで……?
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