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「わたくしも最初は驚いたわ。まさか公爵家から申し出を頂けるなんて。ギルバート様がシェイラに一目惚れなさったそうよ」
「母上、我が娘はオリミナ譲りの美貌ですから。ギルバート殿から見初められるのも不思議ではありません。私がオリミナを一目見て、今すぐ手に入れたいと思ったのと同じ衝動でしょう。実に気持ちが分かります」
「あの時のあなたには本当に困らされたわ。平民の娘を妻にしたいだなんて言い出して。認めてくれなければ家を出ると騒ぎ出すのだから。家の存続のために渋々許可を出したけれど、本当に頭が痛かったわよ」
「それくらいオリミナと結婚したかったのですよ」
「結局、我が家の後継となる男児を産んではくれなかったけれど、公爵家の子息に見初められる娘を産んだことだけは功績だわね」
突然舞い込んできた予想外の婚約者打診に言葉を失っている私をよそに、祖母と父は二人で会話を繰り広げる。
そのやりとりから、どうやら私は母と全く同じ道を辿ろうとしていることが察せられた。
つまり、父が母に一目惚れして平民の娘を子爵夫人にしたように、私も公爵家という身の丈に合わない相手との結婚をすることになりそうだということだ。
……自分のように苦労して欲しくないと、お母様があれほど私に忠告してくれていたのに。公爵家に嫁ぐなんて絶対に嫌だわ。
ただ、どんなに拒否したくとも、それはもう手遅れだ。
父が先程言っていた。
すでに先方へ快諾の返答をした、と。
「来月から入学する王立学園では婚約者として過ごし、シェイラが18歳になって卒業した後に結婚という予定だそうよ」
「ギルバート殿はシェイラの一つ年上だから、二年も共に婚約者として王立学園で過ごせるというわけだ。仲良くしなさい」
すでに結婚までの具体的な計画も経っているようである。
エーデワルド王国では、15〜18歳の貴族の子息子女は、王都にある王立学園に三年間通うことになる。
18歳での卒業とともに成人と見做されるのだが、それまでに学園で貴族として必要な教養を学び、人脈を築くのだ。
同時に妙齢の男女が集うこの学園での日々は絶好の伴侶探しの場でもある。
だが、デビュタント直後――学園が始まる前の婚約は、対象から外されることとなる。
売約済みを意味するのだ。
……こうなったら、卒業までの学園生活の中でギルバート様の心が他の令嬢に向くように立ち回るしかないわね。
公爵家との婚約を、立場が下である子爵家から破棄することは不可能だ。
身の丈に合わない結婚を避けるためには、ギルバート様の方から婚約破棄を申し出でもらう必要があると私は結論付けたのだった。
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