02. 王太子様との邂逅

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02. 王太子様との邂逅

「これで子爵令嬢である君が不利な立場に立たされることはないだろうから安心して」 気付けば話し合いは終了しており、元婚約者であるギルバート様とカトリーヌ様はその場からいなくなっていた。 後に残されたのは私と王太子殿下だけ。 二人きりになると、王太子殿下は私の方に近寄って来てにこりと微笑んだ。 いつの間にか双方のサインをした書面まで出来上がっていて、それを王太子殿下は私に手渡してくる。 「……ありがとうございます」 公爵子息と侯爵令嬢を前すると身分的に弱い立場であったため、助かったのは事実だ。 私は書面を受け取りながら、深々と頭を下げて御礼を述べた。 それで終わりかと思えば、なぜか王太子殿下は笑みを浮かべその場に佇んだままだ。 王族を先置いて私が去るわけにもいかない。 王太子殿下が先にこの場からいなくなってくれないと、私も動くに動けないのだ。 双方その場に立ちすくんだまま、微妙な沈黙が流れる。  ……なんで王太子殿下は動かないのかしら?  王太子殿下の意図が読めず、私は目の前にいる彼を不躾にならないように気をつけながら密かに観察してみた。 私はデビュタント以降、必要最低限の舞踏会や夜会にしか参加していないが、その中で何度か王太子殿下を遠目から拝見したことはあった。 でもこれほど近くで接するのは初めてだ。 間近で目にするとスラリと背が高く、端正な顔立ちをした美形であることがよく分かる。 その整った顔には、感じの良い優しげな笑顔が浮かんでいて、誰よりも高貴な身分なのにどこか親しみのある温和な雰囲気だ。 間違いなく初対面の相手に好感を与えるタイプの人だ。 「無敵王子」と言われるのも納得ではある。  ……ただ、実は私、この王太子殿下のことあまり好きじゃないのよね。 顔良し、頭良し、性格良しで欠点らしい欠点がないからだ。 あまりにも出来すぎていて、以前からなんとなく苦手に感じていた。 だから、王太子殿下と二人きりという、他の令嬢達にしてみれば羨ましいことこの上ないであろうこの状況を、私はとても厄介に感じでいる。  ……笑ってないで早くどこかへ行ってくださらないかしら。 決して口にはできない不敬な言葉を心の中で唱えるが、残念ながら依然として王太子殿下は私の目の前から動かない。 痺れを切らした私は、自ら沈黙を破ることにした。
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