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あの日の復路での出来事を思えば、私の心に動揺が走るのも無理はない。
あの日の私はおかしかったのだから。
「最近寒い日が続きますね。王城内は暖かいので大丈夫だと思いますが、お風邪など召されぬようお気をつけくださいね」
「お気遣いありがとうございます。冬は寒さで体内の血の巡りが悪くなると言いますので、健康状態には気をつけねばとちょうど思っていたところです」
「それがよろしいですね」
自身の心の動きに結論を出てスッキリした私は、廊下を歩きながら和やかに衛兵の方と言葉を交わす。
「……ん? あれはフェリクス殿下?」
だが、先導してくれていた彼がふいに少し先の方へ目を凝らし、不思議そうな声を出した。
釣られてそちらに視線を向けると、人好きのする笑顔を浮かべたフェリクス様が誰かと話をしているところだった。
「それと……ストラーテン侯爵令嬢?」
衛兵の方のつぶやきにが耳に届いた時には、ちょうど私も同じことに気が付いていた。
フェリクス様の腕に絡み付くカトリーヌ様の姿が目に飛び込んできたのだ。
なにやら親しげに会話を交わす二人は、そのまますぐ近くにあった応接室へと入って行く。
パタンと扉が閉まり、その場には誰もいなくなった。
「今日はサロンで打合せと伺っておりましたが……急用なのでしょう。フェリクス殿下はすぐに参られると思いますので、シェイラ様は予定通りサロンでお待ちください」
「え、ええ。分かりました」
「実はストラーテン侯爵令嬢はお父上の侯爵様に伴ってここのところ毎日王城へお見えになっているのですよ。フェリクス殿下にご執心ともっぱらの噂です。私ども衛兵も勝手に王城をふらふら歩き回られるのには少々困っておりまして。今回のようにフェリクス殿下のご予定を妨げるのはさすがに目に余ります。きちんとお約束があられるシェイラ様にご迷惑おかけし申し訳ありません」
サロンへ案内された私は、衛兵の方からの愚痴混じりの謝罪を受け、なんと言っていいか分からず曖昧に微笑んだ。
それに正直なところ、まともに返事を返す余裕がなかった。
激しい胸の痛みと動揺が胸中を駆け巡り、人知れず混乱に陥っていたからだ。
……なに? どうしたというの? なんでこんなにも胸が締め付けられるの……?
衛兵の方が去り、サロンの中で一人になった私は自問自答を繰り返す。
考えても分からないことだらけだが、一つだけ確かなことがあった。
それはフェリクス様とカトリーヌ様の仲睦まじい姿を目撃したことが引き金だったということだ。
……二人の姿を見てショックを受けている……? ま、まさかね? だってフェリクス様と関わり合いにならないためには最高の状況だわ。カトリーヌ様に好意が向けば、私に構う必要はもうないはずだもの。
分からない。
本当に自分の心が不可解で手に余る。
それから数分後。
衛兵の方の予想通り、フェリクス様はすぐにサロンへと姿を現した。
調整事で実働してもらってるからと今日はリオネル様も一緒だった。
それ以外はいつもと変わらない。
フェリクス様はカトリーヌ様との逢瀬を匂わせることもなく、いつもと全く変わりのない様子で、いつも通りに打合せを進めて行く。
唯一いつもと違うのは、心ここに在らずの状態である私自身だった。
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