1487人が本棚に入れています
本棚に追加
なぜかシェイラは僕から必死に距離を取ろうとするが、普通は下級貴族であればあるほど権力者には取り入りたがるものだ。
立場の弱さを補強するため有力者の後ろ盾を得ようと誼を結びたがる。
シェイラ自身は真逆の行動を見せるものの、彼女の家族はそうではないだろうと僕は推測していた。
王太子である僕とシェイラに親交があることを知れば、必ずやこの縁を逃すなと後押ししてくれるはずだと踏んでいた。
つまりシェイラ本人へ仕掛けるのと並行して、外堀から埋める作戦に出たわけだ。
これらの策は非常に上手くいき、シェイラから色良い返事が貰えた上に、当日子爵邸へ迎えに行ったら一家総出で歓迎を受けた。
中でも特に彼女の祖母は熱烈だった。
……これで彼女の家族は懐柔成功。今後も心強い味方になってくれることだろうね。
乗り込んだ馬車の中で思わず僕がニンマリ笑ったのは言うまでもない。
そうしてシェイラと訪れた城下町でのデートも実に順調だった。
予定通り、マクシム商会へ向かう前にナチュールパークに立ち寄り、この時期見頃を迎えていた紅葉の鑑賞を楽しんだ。
もちろんただ楽しむだけではなく、積極的に攻めることも忘れない。
こちらから仕掛けるつもりだったので、城下町に到着して早々、馬車を降りる時にエスコートした手をそのまま離さずにいた。
明らかに動揺すらシェイラを横目に見つつ、何食わぬ顔していると、さすがに耐えかねたのか「離して欲しい」と懇願された。
まあそう言われるのは予想の範疇だったため、アッサリ受け入れつつも、手の甲に口づけを落としてみた。
目を見開くシェイラの頬に赤みが刺す。
照れている様子が見受けられ、僕を意識してくれているようで嬉しく思った。
……僕の方から先制攻撃はなかなか効いているみたいだね。
気を良くした僕は、鼻唄でも奏で出しそうな気分で紅葉が美しい歩道に向かって歩き出した。
先行攻撃を僕に許したシェイラからの後攻攻撃はその歩道での散策中のことだった。
シェイラが突然僕の腕を取り、身を寄せてきたのだ。
不可抗力的に腕に柔らかい感触を感じ取る。
いや、わざと当てられているのかもしれない。
「いきなりすみません。足元に落ちている葉に滑って転びそうになって。思わずフェリクス様の腕を掴んでしまいました」
そう述べつつ、僕の反応を窺っているシェイラは分かっているのだろうか。
……なかなか大胆な手を使ったみたいだけど、顔が真っ赤で無理して頑張ってるのが丸わかりなんだけど。相変わらず可愛いなぁ。
これで僕に嫌われようとしているとは。
色仕掛けをする女は嫌いだが、それがシェイラである以上嬉しいだけだということを、そろそろ気付いて欲しいものだ。
最初のコメントを投稿しよう!