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「あの、王太子殿下……?」
「ん? 何かな?」
「お忙しい中、証人になってくださったこと、本当に感謝いたしております。偶然通りかかられたとのことでしたが、ご政務中だったのではございませんか? どなたかをお待たせになっているのでは?」
改めて感謝を伝えつつ、「だから私のことは気にせずさっさと行ってね」とやんわり告げる。
これでさすがに王太子殿下も動き出すだろうと思った。
だが、この私の予想は外れてしまう。
王太子殿下はその場を動こうとしなかったのだ。
「政務は別に大丈夫。頼れる側近に任せてあるからね。むしろ僕がいない方がアイツは喜ぶんじゃないかな」
「喜ぶ……?」
「ああ、気にしないで。こっちの話。……ところで、シェイラ嬢。君とこうして言葉を交わすのは初めてだね?」
王太子殿下は政務について言及した私の言葉を軽く受け流すと、なぜかそのまま逆に問いかけてきた。
「はい。下級貴族である私が王族という尊い身分でいらっしゃる王太子殿下とこのようにお話しさせて頂けるのは大変光栄でございます」
本音は、あまり関わり合いたくないので、話したくもない。
だけど、それを口にすることはさすがにできず、私は内心を押し隠し、慇懃な態度で答えた。
「へぇ、光栄だと思ってくれてるんだ?」
「もちろんでございます」
「ふふ、本当にそう思ってる?」
完璧に本音は包み隠したはずなのに、なぜか王太子殿下は私の心の声を見透かしたようなことを言う。
鋭い観察眼に一瞬ドキリとしたが、王太子殿下は気分を害しているという様子ではない。
むしろ楽しくてたまらないという感じで、にこにこ笑っている。
非常に不可解だ。
「まあ、いいや。これ以上はつっこまないであげる。それにしてもシェイラ嬢は面白いね」
……面白い? 私が?
全く身に覚えのない評価を告げられ、私はますます目の前の王太子殿下が分からなくなった。
今まで誰かに「面白い」なんて言われた経験はない。
誰かから褒められるとすれば、それは容姿についてばかりだった。
だからそれ以外のことを言われると少々面食らってしまう。
……さっきから王太子殿下の言動は理解不能ね。やっぱりなんだか苦手だわ。
ますます苦手意識が醸成されていく。
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